櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◇
「もうすぐ、かな」
朝から歩き通し、太陽が真上に上った頃。
イーリスがポツリとそう呟いた。
「ああ、あと十分もすればこの森も抜ける。そしたらアイルドール王国の王都が見えてくるだろう」
数日前に四人はアイルドール王国に入国した。
目的地は王都『ナイル』
そこにいるであろう、ある人物を探しだすため。
しばらく歩いていると、徐々に視界を遮っていた木々が減り、辺りが開けてくる。
そして、水の京と謳われる王都『ナイル』が姿を現した。
大きな湖の中心に浮かぶ、古城。
それを囲うように作られた小さな城下。
赤く色づいた葉がヒラヒラと宙を舞い、湖面をいっそう鮮やかに飾る。
「綺麗...」
フェルダンのルシャ王都とは違った美しさを放つその都市に、ルミアは思わず声を漏らした。
他の三人も言葉を発せず、呆然とその光景を見つめる。
そのまま静かに歩みを続けていると、湖の淵にまでたどり着いた。
そこには関所のような建物があり、それ以外には何もない。
(ここが、入口...)
なんとなくだが、それはすぐに理解出来た。
「行くぞ」
ジンノのその一声で、皆は覚悟を決める。
身なりを正し、口元には顔が分からぬように黒いマスクを。
ユニコーンのノアは目立ちすぎるため、ただの白馬へと姿を変えてもらう。
「角がないと新鮮だね、ノア」
「そうか?まあ、落ち着きはしないがな」
ユニコーンの象徴と言える角が消えた額を優しく撫でる。
ルミアのその手に、ノアは気持ちよさそうに目を細めた。
「お前達、何者だ」
関所の前には門番らしき人物が。
他国と違い入国するのも簡単な中立国アイルドールでも、王都となれば流石に警備もそれなりに厳しくなるらしい。
ジンノが進み出てマスクを下げ、門番に顔をさらす。
「...!これは、ジンノ様!」
「久し振りだな、クロノワ」
「お久しぶりです!...噂をお聞きしました、国を出られたと。本当なのですか?」
「まあな本当だ」
見知った口調で話を進める二人。
「兄さんと知り合いなの?」
状況を理解できていないルミアがイーリスに尋ねる。
「ああ...ルミは知らないのか。五、六年前だったかな...ジンノはアイルドール王国の軍事補佐に行ったことがあるんだ」