櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ








「もうすぐ、かな」



朝から歩き通し、太陽が真上に上った頃。



イーリスがポツリとそう呟いた。



「ああ、あと十分もすればこの森も抜ける。そしたらアイルドール王国の王都が見えてくるだろう」



 数日前に四人はアイルドール王国に入国した。



 目的地は王都『ナイル』



そこにいるであろう、ある人物を探しだすため。



しばらく歩いていると、徐々に視界を遮っていた木々が減り、辺りが開けてくる。



そして、水の京と謳われる王都『ナイル』が姿を現した。



大きな湖の中心に浮かぶ、古城。



それを囲うように作られた小さな城下。



赤く色づいた葉がヒラヒラと宙を舞い、湖面をいっそう鮮やかに飾る。



「綺麗...」



フェルダンのルシャ王都とは違った美しさを放つその都市に、ルミアは思わず声を漏らした。



他の三人も言葉を発せず、呆然とその光景を見つめる。



そのまま静かに歩みを続けていると、湖の淵にまでたどり着いた。



そこには関所のような建物があり、それ以外には何もない。



(ここが、入口...)



なんとなくだが、それはすぐに理解出来た。



「行くぞ」



ジンノのその一声で、皆は覚悟を決める。



身なりを正し、口元には顔が分からぬように黒いマスクを。



ユニコーンのノアは目立ちすぎるため、ただの白馬へと姿を変えてもらう。



「角がないと新鮮だね、ノア」



「そうか?まあ、落ち着きはしないがな」



ユニコーンの象徴と言える角が消えた額を優しく撫でる。



ルミアのその手に、ノアは気持ちよさそうに目を細めた。



「お前達、何者だ」



 関所の前には門番らしき人物が。



 他国と違い入国するのも簡単な中立国アイルドールでも、王都となれば流石に警備もそれなりに厳しくなるらしい。



 ジンノが進み出てマスクを下げ、門番に顔をさらす。



「...!これは、ジンノ様!」



「久し振りだな、クロノワ」



「お久しぶりです!...噂をお聞きしました、国を出られたと。本当なのですか?」



「まあな本当だ」



 見知った口調で話を進める二人。



「兄さんと知り合いなの?」



 状況を理解できていないルミアがイーリスに尋ねる。



「ああ...ルミは知らないのか。五、六年前だったかな...ジンノはアイルドール王国の軍事補佐に行ったことがあるんだ」



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