櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
中立国・アイルドールとは
どこの国にも加担することなく、永久的な中立を宣言した王国。
ゆえにその中立と国土を守るためであれば、どの王国とも戦争する。その覚悟があるのだ。
その為、アイルドール王国の軍隊は世界的にも強く、数々の戦果を挙げている。
しかし魔法使いを中心とした特殊部隊に関してはまだ未熟で、フェルダン王国の特殊部隊と比べてしまえばおよそ足元にも及ばない。
そこでアイルドール王国は軍事強化を目的としてフェルダン王国に戦闘指導を願い出たのだ。
その際にこの国に贈られたのがジンノというわけである。
クロノワと呼ばれたこの男はアイルドール王国の軍隊で全十二ある部隊の第二部隊の副長を務める王国でも随一の軍人。
ちなみに第一部隊と第二部隊はフェルダン王国でいう特殊部隊だ。
中立国の王都門番となれば、軍の中でもトップクラスの強さをもつ者たちが必ず一人はいるらしい。
「そちらの方々は...」
門番改めアイルドール王国軍隊副長・クロノワがジンノの背後に立つルミアたちに気が付いた。
「初めまして、ルミアと申します」
「イーリスです。こっちはリュカ」
「どうも」
「皆、俺の兄妹だと思ってもらっていい」
ジンノがそう答えるとクロノワは眼を輝かせた。
若干ジンノ達は引き気味なくらい、テンションが上がる。
「なんと!ジンノ様のご兄弟ですか!いやあ、お目にかかれて光栄です!!皆さんも特殊部隊の一員で?」
「まあ、そうだが...」
「おおお!!!」
もはや気持ち悪いくらい興奮しているクロノワ。
手袋をはずして握手まで求めてくる始末。
どうやらジンノ、そしてフェルダン王国の特殊部隊はこの国で神格化されているらしい。
一体何をしたんだか。
「クロノワ...落ち着けお前。とりあえず王都に入りたいんだが」
「あ!そうですね!少々お待ちください」
クロノワは他の衛兵に門番を任せ、ジンノらを引き連れ関所を通り抜け、湖の淵まで向かう。
そこに王都へ続く道は一つも存在しない。
クロノワは手をかざす。
そして
〈アクア〉モーセ・ホドス
と唱えた。
途端、低い音を鳴らしながら湖の水が割れ始める。
その光景を始めて見たルミアたちは目を瞠った。
何もないはずのそこに道ができたのだから。