櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
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「火事だーー!!」
その叫びが三人の耳に届いたのは、空もわずかに茜色に染まり始めた夕暮れ時。
「また家が燃えている!」
「今度は西の市街区と、東の貴族街らしいぞ」
「碧の部隊はどうした?」
「どうやら貴族街に向かってるらしい...」
国民たちの噂話により次々と情報が飛び込んでくる中、ルミアたちは自然と西の市街地へと足を動かしていた。
「西の市街区......走れば五分で着く」
「碧の部隊とやらが間に合っていればそれでいいが」
「多分間に合わないわ。真反対だもの」
日中、王都の町中を歩き回ったおかげか地理はほぼ把握出来ており、ルミア達は立ち止まることなく入り組んだ路地を走り抜ける。
一般人ではあり得ないほど素早く軽やかな身のこなしで障害物をものともせずに突き進む三人に人々は目を奪われた。
そんな自分たちに向けられる視線など気にすることなく、ただただ真っ直ぐに走るルミアたち。
すでに鎮火していればそれでいい。
だが、もしかしたらまだ消化できていないかもしれない、けが人がいるかもしれない。
そんな可能性がどうやってでも頭をよぎり、考えるより先に体が動いてしまう。
たとえそれが自国フェルダンでのできごとじゃなくても。
「あ...!」
ふと顔を上げると、明らかに夕日のもたらす赤みを帯びた光とは異なる、うねる様な真っ赤な炎が視界の隅に確認できた。
「...先に行く」
それを見るや否や、瞬く間に姿を消すリュカ。
特殊部隊の中でも随一の素早さを誇る彼は、いても立ってもいられなくなったのだろう。
ルミアとイーリスも後に続くように素早く地面を蹴る。
真っ赤に燃え上がる建物の全貌が現れた時、イーリスが何かを感じたのか不意に立ち止まった。
「...イーリス?」
「ルミ、これは恐らく放火だ」
「え、」
唐突に放たれたその一言に、ルミアは目を丸くする。
そう連続に火事は発生しないから、多分そうだろうとは思っていた。しかし証拠もなく言うわけには行かないと黙っていたのだが。
「確証が...あるの?」
ルミアの問いに、イーリスは大きく頷く。
「ああ。俺は犯人を追う。ここは任せていいか?」
自信たっぷりにイーリスが言うのだから、きっとそうなのだろう。
ルミアもにこりと微笑み、頷く。
「いいよ。その代わり絶対逃がさないでね」
「ふん。俺から逃げられるもんか」
最後に互いの拳を1度だけ合わせ、二人は自分のやるべき事を成すために走り出した。