櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「大丈夫ですか?」
涙で顔をぬらす女性と彼女を止めていた男性を火の届かない安全な場所まで運ぶ。
「あ、貴女は......」
戸惑う二人を見つめ、炎の光を浴びながらもはっきりと分かる藍色の瞳が、二人の身体をいたわる様に柔らかく細められた。
「安心して、じきに火の手も収まります。息子さん達もきっと無事ですよ...ほら」
そう言ってルミアは、燃える建物を見上げる。
人々がその視線を追った瞬間、
パリィン!!
建物の2階隅の部屋の窓が音をたてて破れ、業火の中から塊が飛び出した。
それは静かに地面へと降り立ち、ゆっくりとルミアの元へと進み出る。
リュカだ。
トレードマークの白いキャップは灰で黒く汚れ、身につけたマントも所々こげて破れてしまっている。
しかし、その腕の中には確かに二人の少年がいた。
息を止めていろとでも言ったのだろう。
二人の子供はリュカの体に顔を埋め、けして離すまいとしかと抱きついている。
「おい...もう大丈夫だぞ」
そっけなくも、優しいリュカの声に二人の少年は震えながら顔を上げる。
不安そうな彼らの背後で、母親がルミアの元から立ち上がり叫んだ。
「ノエルッ!カーリー...ッ...!!」
母の存在に気がつくと、それまで我慢していた涙がぶわわわっと溢れ出し、リュカの腕から抜け出して同じように泣きじゃくる母のもとへ駆けていく。
「「ッ、ママあぁ~~~!!!」」
ひしと抱き合う親子。
それを見て、良かったと感動する街の人々。
それを片目に、リュカとルミアはほっと安堵しつつも、なおも燃え盛る建物へと意識を向けた。
〈アクア〉ブラウエルモント
〈アイス〉ザルク
二人同時に魔法を発動させる。
この炎は火属性の高位魔法によるもの。なかなかのレベルの物だ。対局に存在する属性の魔法でしか消化はできない。
だからこの国では水の魔力を扱う魔法使いたちが『碧の部隊』として編成されたのだ。
リュカもまた、彼らと同じく『水』属性の魔法を扱う。
魔法を唱えると同時に現れた空中に浮かぶ巨大な水の球。
それが建物を覆うように動いた途端、それら全てを囲うように氷の壁が出現し、まるで箱のようにその他全てから隔絶し蓋をする。
氷の壁の向こうでは炎と水がまるで生き物で、戦いをしているかのようにうねり乱れ、はじけ飛ぶ。
しかし魔力の差は圧倒的で、ことはモノの数秒でかたがついた。
氷の壁が粉雪となって消えた後にはそのほとんどが真っ黒の炭となってしまった建物の残骸だけが残っていた。