櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◇
「はーい他に怪我している人いますかー??」
「あ、すいません。この子も...」
「いいですよー。痛かったねーよく我慢したね。今からお姉さんが怪我を治す魔法、かけてあげるからね」
炎を受けてヤケドした腕にそっと触れ、瞼を閉じる。
触れたその手から柔らかな光が溢れ出し、瞬く間に怪我が癒えていく。
目をひらけば、もうそこにはヤケドの跡はない。
「わああ!お姉ちゃん、ありがとう!!」
「いいえ、どういたしまして」
痛みが消え、満面の笑みを浮かべる男の子を笑顔で見送り、ルミアは再びけが人の治療を再開する。
リュカが建物を燃やす炎を鎮火させてから、ルミアは怪我を負った街の人々の治療を始めた。
アポロ程ではないが、ルミアも十分な医療技術を持っている。
ルミアが次々と傷を癒している最中、隅で壁によりかかり休むリュカの元に、放火に巻き込まれた子供のうち長男のノエルがやってきた。
「お兄ちゃん」
そう呼びかけるが、リュカは少しだけ辺りを見回すだけ。こちらを見ようとしない。
「お兄ちゃんっ」
「あ?...ああ、あのガキか」
マントを引っ張ってもう一度声をかけると、ようやく気がついたのか、ノエルの方を見た。
「お兄ちゃん、助けてくれてどうもありがとう」
ノエルは小さな体でしっかりとお辞儀をする。
「.........別に礼を言われるような事はしていない」
「でも、お兄ちゃんが来てくれなかったら、俺も弟もきっと死んでた」
「......」
リュカが現場に駆け付けたとき、既に火の手は建物全体に及んでいた。
すぐさま中に入り、子供二人を見つけた時、ノエルはカーリーを庇うような格好で炎の中に座り込んでいた。
炎の中で、震えながらも必死に弟を守ろうとしていた兄の姿。
それが記憶の中の、ある人物と重なり、リュカは自然と体が動いたのを覚えている。
倒れてくる家材から体を張って二人を守った後、
『助けに来た。すぐにここを出る。二人とも息を止めておけ』
そう声をかけて二人を抱え込み、魔法で作り出した水のベールを纏わせながら炎の中を突っ切って窓から飛び出たのだった。