櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「お兄ちゃんが来てくれなかったら、ママにも会えなかった。カーリーも守れなかった...俺、死んだパパに言われたんだ。ママとカーリーを守ってくれって。
......俺、もう少しで、パパとの大事な約束守れなくなるとこだった。......俺もお兄ちゃんみたいに強くなりたい」
悔しそうに顔を歪ませ、そう言い切る小さな戦士の姿に、リュカは少しだけ口元を緩める。
そして
ボスッ
「わっ!!何!?......帽子?」
リュカがかぶっていた筈の白いキャップが、何故か自分の頭にあることに驚くノエル。
「それをやる。俺を守ってくれた大事な人から貰ったもんだ」
「え!?そんな大切なもの......貰えないよ」
「いいさ。つけてろ。それ付けてっと、強くなれるから」
まだまだノエルの頭には大きくて、ぶかぶかなそれの上からポンポンと頭をなでる。
いつも他人に興味なさげにしているリュカには珍しく、膝をおって目線まで合わせてやる。
「いいかよく見ろ」
「ん?...うん」
「俺はな、目が見えん」
「え、」
リュカが指さす先には、固く閉じられた目。
瞼でシャットアウトされた、視力を失った瞳だった。
「幼い頃、病気で視力を失った。だからお前が今どんな表情をしているかも、どんな服を着ているかも、何もわからない」
だけどな
「お前の存在は分かる。何かを守るにはそれだけで十分だ。
...確かにお前はまだ、今回みたいな状況に陥った時、弟や、母親を守れるほど強くない。でも、目が見えない俺だって強くなれた。お前がなれない筈は、ない」
力強いその言葉に、ノエルはぐっと息を呑む。
「がんばれ、お前は『守りたい』という意志がある
強くなれるさ。俺が保証する」
先程よりも強く、ポンポンともう一度頭をなでたリュカは、ノエルに不器用に微笑んだ。