櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ



「ノエルー」

「お兄ちゃーん」



離れた場所でノエルを呼ぶ、母親と弟のカーリーの声が聞こえる。



「おら、お前のこと呼んでるぞ。行ってこい」


「う、うんっ!...これ、大事にする!!」


「おう」



 ノエルは何かを決心したような男らしい顔をして、家族の元へと戻って行った。



 それと入れ替わりで人々の集まる広場に、人を担いだ体格のいい男が現れる。



そのまままっすぐにリュカの元へ。



「おー無事鎮火できたか」



 もちろん、犯人を捕まえに行ったイーリスだ。



「まあな。それよりお前の方はどうなんだよ。ちゃんと捕まえたのか犯人」



「ああ。ほら」



 
 その場にぼすっとおろした放火犯の男は気絶したまま。



 それをリュカが顔だけ向けて確認する。



 リュカの目に視力はない。



 何も見えない。



光も色も、何も。



それでも特殊部隊の騎士として戦うことが出来るのは、彼が魔力を見ることが出来る特殊な力を持っているからだ。



 どのような仕組みなのか他の者には分からないが、リュカ本人曰く、魔力を『色』として認識しているらしい。



 どうやって身につけたか定かじゃないが、本来はできない魔力を視覚的に見ることがリュカはできるのだ。



「...確かに火属性の魔法使いだな。そこまで魔力は強くないだろう」


「ははっ、一般的には強いほうじゃないか?俺達と比べたら全くだが」



 普通の魔法使いはリュカの目には体の中央、心臓部分にぼんやりと色のついた魔力が靄となって見えるだけ。



 しかし特殊部隊の面々は魔力が強すぎて、体内に収まり切れない。



 胎内に宿る魔力は全身に行き渡り、人の形を浮き彫りにする。収まり切れない分はオーラのような形で溢れ出ているのだ。



 放火犯は確かに人並み以上の魔力を持ってはいるようだが、それでもただの靄程度にしか見えない。



 特殊部隊とは比べ物にならない程度だった。



「...どうでもいいが、ちゃんと捕えておけよ。碧の舞部隊とやらを差し置いて出しゃばったからにはそいつらに引き渡すまでが俺達の仕事だ」


「相変わらず律儀だなぁ、まあ任せておけ。...と言っても大分強く殴ったからたぶん気づくこともないと思うが」



< 84 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop