櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
アイルドール王国の小さな民宿のとある一部屋。
ベットと小さめなデスクだけが置いてある、簡素な部屋だ。そのベットの中ではルミアが毛布にくるまり眠っていた。
月光に照らされた白髪がまるで銀糸のように美しく、枕元に広がる。
チク、タク、チク、タク...
時計の針が刻む音だけが、その空間を支配していた
そんな真夜中だった。
キィと音を立てて扉が開く。
一歩ずつ、静かにベットに近づく人影。
少し硬めのベットにそっと腰かけ、白い眠り姫を覗き込んだ。
「ルミア...」
真っ白な肌に伸ばされたその手は、優しく頬を撫でる。
それはそれは、愛おしそうに。
「ぅん......」
それを受けるルミアは、くすぐったそうに小さく声を上げ、ふっと目を覚ました。
寝ぼけ眼で目の前の人物を認識すると、ふわりと微笑み、自らも手を伸ばして相手の頬を包み込む。
「お帰り、兄さん......」
なんのためらいもなく伸ばされた手。
彼女の細く白い手を、その上から一回り大きな自分の手で優しく触れ、握りしめた。
「......ただいま、ルミア」
月明かりの下で見上げた兄の顔は、見たこともないくらい穏やかで
それでいて、
とても切なそうだった。