櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
ギシ、...
「え、」
覆いかぶさる影。
起き抜けで現実に追いついていかない。
銀糸の広がる枕元に、ルミアの頭を挟むようにして両手がつかれる。
自分をすっぽり覆い隠すようにして目の前にいる兄を、ルミアは、眼を丸くして見上げていた。
月の光が遮られて表情が見えないことが、余計にルミアの不安を加速させる。
「なに、してるの...?」
酔っ払っているのかとちょっと思った。
けれど、今までジンノが酒を飲んで酔ったことなど一度たりと見たことはない。それに、酒のにおいも一切しない。
だからと言って、素面でこんなことが出来るような兄じゃない。
問いかけても返答をしないことで、徐々に焦りが生まれ始める。
「ねえ、本当にどうしたの?何かあったの?様子、変だよ」
ベットから上半身を起こし、ジンノの顔を覗き込もうとした。
───それが甘かったのだ。
本能的に感じ取った『不安』や『焦り』に従えば良かったのに
心のどこかで、兄はそんな事しないと確信してたんだ
そんな根拠、どこにもないのに───
視界いっぱいにジンノの整った顔が映った。
唇に、柔らかな何かが触れる
『キス』だ
そう認識するにはあまりに突然で、
思考が停止するとはこのことかと、変なところで冷静だった。
ドンッ!!!
しかし、体は正直で、
考えるより先に、ジンノの体を突き飛ばしていた。