櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「俺とお前に血縁なんてない」
「...ウソよ」
「嘘じゃない!!...ずっと、ずっとお前の『兄』を演じるつもりだった。それがお前の幸せになるなら。だがそれが足枷になってしまうならもうどうでもいい。もう...気持ちを閉じ込めるのも限界だ」
涙にぬれた顔を近づけて囁く。
「好きだ」
「!!」
「何年も...十年以上前から、ずっと...」
ジンノは泣いていた。
どこかほっとしたように、その何倍も切なく、苦しそうに。
そんなジンノを見て、ルミアの目からも涙が溢れ出す。
誰よりも信頼していた『兄』
唯一の家族と信じていた『兄妹』
その全てが偽りだったこと。
そして何より、その事実より、いつも自分を苦しみから救いあげてくれていたジンノが、ずっと自分のせいで苦しみ続けていたことに。
「...十年前、お前を亡くして、俺がどれだけッ...苦しんだか...今でも忘れたことはない。もう二度とあんな思いはしたくない。だから、お前はここに残るんだ」
そこに冷たさはなく、大きな両手で頬を包み込み、優しく言い聞かせる。
懇願にも近いそれに、咄嗟に頷きそうになるが、ルミアはゆっくり頭を横に振った。
「...ルミア...」
「...ごめんなさい。でも、私、シェイラさんを...守らなきゃ...」
おそらく望まれてない返答だ。そんなこと分かってる。それでもこの想いだけは。
「......お前は知らないだろうが、あの男は俺達をフェルダンから追放した張本人だ。婚約し、いずれお前じゃない別の人間と結婚する。お前のその思いは報われることはないんだ」
「報われるとか報われないとかそんなこと考えてない!私は騎士よ、主の為に戦い守るだけ。そこに私利私欲はない」
右耳に光る真っ白なイヤリング。
これをシェイラに貰った時に誓った。
彼の為に生きることを。
「私は彼の為の騎士でありたい。その為に死ねるなら、本望」
ジンノだって同じはずだ。
たとえ、血がつながっていなくても、本当の兄妹じゃなくても、
同じ環境で、同じ目的の為に、同じ時間を過ごしてきたのだ。
騎士であることの誇りや、想いの強さは、ジンノのそれと同等だと信じてるから。