櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
Ⅵ*闇夜に輝く星々は
*
フェルダン王国、ルシャ王都
温かな風が駆け抜ける穏やかなこの街に、流れる一つのニュース。
その当事者は一人、王宮の中を、自身の執務室に向かって歩く。
途中ですれ違う役人や使用人たちは、足を止めて首を垂れる。
いつもと変わらぬ光景。
だが一つ、違うところがあるとすれば、そこに以前は皆無だった『忠誠心』が現れたことか。
⦅偽りの王⦆という二つ名で蔑まれてきたはずなのに、今では全くそれがない。
「あっシェイラぁー!」
ふと、進行方向から手を振りながらやってくる一人の女性。
「どこに行くの?私もついて行っていいかしら?」
ごく親しそうに話しかける彼女の名は、アネルマ・フィンステルニス。
フィンス家の長女であり、ニュースのもう一人の当事者である。
初めこそ敬語で話しかけてきたが、今ではもう抵抗なくフランクな口調で話しかける。
それを見た皆が咎めないのは二人が婚約した公認の仲だからだろう。
真っ黒で豪勢なドレスで身を包みながら、そこは王族の長女らしく品のある仕草が美しさを際立たせる。
「ごめん、まだ仕事があるんだ」
「そうなの?もうっ、また無理してない?ついこの間倒れたこと忘れたの?」
以前より少し痩せこけた頬を心配そうは表情で触れるアネルマ。
そんな彼女に「大丈夫だよ」とそう言って、シェイラは優しく微笑む。
それはとても甘い雰囲気で。
辺りにいる使用人たちは頬を染めて見守る。
結婚も間近ではないのか
近年まれに見るお似合いのカップルじゃないか
そんな言葉が王宮のいたるところで囁かれている
そんな毎日だった。