き み さ え い れ ば 。

左手の感触を確かめるように
少し力を入れたけど
何を握っているのかわからなかった。


「なんだ……?」


少しずつハッキリしてきた意識を
左手に向ける。

顔を横にして
目線を向けた先には、


「……春佳、?」


その瞬間、
頭の中に次々と光景が浮かんだ。


白崎に怒鳴る自分
仕事を抱え込む自分
家でも仕事しかしていない自分
春佳の視線も課長の声も遮る自分
仕事を抱え込みすぎて爆発寸前の自分

そして、ライターの落ちる音。


「う、わっ」


すべてを思い出して、
思わず声を上げて上半身を起こした。



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