正義は誰が決める?
「つきました」
静かに開けられたドアから車を降りて愛空をエスコートする。
車の中で渡された目元を隠すマスクを被って。
清は執事である來夢と並んで歩く。
清も來夢も目元を覆うマスクをかぶっていた。
種類が違うからわかりやすい。
「どうぞ」
開けられた目の前のドアを堂々と入っていって目の前に集まる女に飢えた男共を一瞥した。
優雅にワインを飲む者もいれば俺と清の周りに集まる者もいる。
その中で、小太りの男に声を掛けた。
「東寺様でお間違え御座いませんか?」
はい?と振り返った小太りの男に愛空を突き出した。
「数日前から私の婚約者候補になった女です」
以後お見知りおきを、と頭を下げた愛空は小太りの男からそそくさと離れた。
まるで、怯えるように俺の後に控えた愛空は小太りの男を見ようとしない。
だけど口元にはうっすらと笑みを浮かべている。内心冷汗ダラダラだろうけど。
車の中でマナーを教えたが、ぶっつけ本番が強くて良かった、と息をついた。
なんて思っているうちに俺は何かの影に覆われていた。その影は手を振りあげた小太りの男。
「お前のような下等な者が何故!」
明らかに俺ではなく愛空に向けられたその言葉と振り上げられた拳。
咄嗟に、頭を抱えた愛空を守るように前に出た。
ほぼ俺が殴られるのが確定している中、俺は決して小太りの男から視線を逸らさなかった。
だって、実際俺は殴られないしね。
「数日前とは言え我が主のご婚約者候補になられた方へ向かってその言葉。
そして、一歩間違えれば我が主に手を上げる事になったかもしれないこの行動。覚悟は出来ているな?」
冷たい声音で冷酷な瞳を向ける來夢はパシッと音を鳴らして小太りの男の手を止めた。
ほら、俺は殴られなかっただろ?
だんだん強くなっていく來夢の腕の力に比例して男の顔は険しくなっていく。
「我が主よ、この者の処分を言いつけてくださいませ」
「いいよ、会社潰すだけだから。今は何も手を下さなくていい」