正義は誰が決める?
でも、それはまだ叶わない事だから。いまはそっと蓋をして目を閉じた。迎えはもう頼んだ。学校についたと言う連絡が来たらわかるようにスマホだけ握って、フェンスに体をあずける。
そうしてただボーッと連絡を待つ時間を過ごしていれば、明らかに不機嫌な足音がした。
足音ーー不機嫌を絵に書いたような総長様に、目線だけを向ける。
こいつは白羅の総長、上条智樹。
似合わない金髪に黒のメッシュ。正直イキってるとしか思えないけど、本人はカッコイイと思ってやってるらしい。その感覚はきっと永遠に僕には理解できないものだ。
僕のことが嫌いな総長様は、その態度を隠そうとせずに表に出す。自分は負けないと信じて疑わないアホだ。
「成くん!あのね、夏休みに川に行かない!?」
「行かない。どうでもいいんだけどちょっと声落としてくれない?清寝てるんだよね」
「え!?で、でも!楽しいよ?きっと!」
まさか断られると思わなかったのか、オロオロと戸惑う御崎ルイ。て言うか清が寝てるって言ってるのに同じ音量とか…。清の睡眠より自分の要求が大切です、って?笑わせる。
「行かない」
さり気なく本当に寝てしまった清の耳を塞いで、食い下がる御崎ルイに少し強めの声でもう一度断る。御崎ルイは大抵これでだまる。まあ、今日は総長様も一緒で気が大きくなっているのか、黙らなかったけど。
「あっ、ご、ごめんなさい、わたし、成くんがみんなと仲良くなれればと思って……。迷惑だよね、ごめんね」
「うん、本当に。迷惑だよ」
僕は自分の意見はなんでも通ると信じて疑わない御崎ルイがうざくて仕方がない。だから涙目に上目遣い、普通は可愛いと思うようなこんな仕草をする御崎ルイに何も思わない。 そう言う感情で見れない俺は普通ではないんだろう。
でも、それでいい。こんな奴を可愛いと思うのが普通なら、僕はそんな普通に当てはまりたくもない。
それから目に涙をいっぱい貯めて、御崎ルイはごめんね、と涙を零して屋上を出ていった。 それを横目に相変わらず眠る清の頬を撫でた。あ、爪のマニキュアが禿げてきてる。本でやったのか、切り跡もある。今日の夜にでもまた塗り直さなきゃ。
「別に、行きたくないなら行きたくないでいいだろ」
「……?僕行きたくないって言ったよ?」
「ッそうじゃねぇ!ルイが泣くまで言わなくてもいいだろっつってんだよ!」
「ああ。でも、言わなきゃ引かなかったでしょ?違う?清が寝てるのに声量も下げてくれなかったし」
御崎ルイを見送って、悔しそうに手を握っていた総長様は文句があるようで。 けれどそれもすぐに言い負かされるくらいには意味不明なものだ。
「、……そんなにルイを邪険にしなくてもいいだろ。 あいつはただ、お前に」
「そんなに怒るのなら追えばいいじゃん。優しく慰めてあげなよ。好きなんでしょ?御崎ルイ。僕は嫌いだけどね」
総長様の声は僕の癇に触るし、声が大きいから清が起きてしまう。さっさと話を終わらせたくて総長様に被せて言えば、怒ったのかめちゃくちゃ睨まれた。
あんまり総長様を怒らせるなって言われてるんだけど、この顔が面白くて何度も煽っちゃうんだよなあ。反省。多分次もまた怒らせるけど。
「お前……副総長だからって調子になるなよ」
で、総長様の何が面白いって、言えることがなくなったらいつもこれで終わらせるところ。
喧嘩でも口論でも勉強でも、総長様は決して僕に勝てない。俺と総長様では育った環境も、負けん気も、実力も、全部僕が勝って当たり前なのにね。どうして一々比べたがるんだろうね。分かんないや。
「そのまま総長様にお返しするよ。総長だからって自惚れるな」
あーあ、めんどくさい。いつも通りいない者扱いしてくれればいいのに。その方がどれほど楽か。
言い返されてチッと大袈裟な舌打ちをした総長様は、不機嫌な顔のまま定位置に戻った。てかいつの間にか向こう人増えてるし。誰あれ。まあいいや。関係ないし。
怠そうに立ち上がった白羅幹部の宮本亮太が屋上を出ていく。 何度か総長様と話していたようだし、大方御崎ルイを探しにいけとでも言われたのかな。飛んだとばっちりを可哀想。
総長は結局、ぎゃあぎゃあ騒ぐだけで自分では何もしない。前回は総長様命令で僕が、その前はもう一人の幹部が御崎ルイを迎えに行った。前回僕が総長様命令を出された時は理不尽すぎて却下したけどね。
でも、自分の身に余る権力を不要に使うその姿って、絵に書いた様な
「糞ガキ」
だよね。
もうすぐ着く、とメッセージが届く。それは僕と清の迎えを頼んだ専用執事からで。 仕事の早い専用執事のことだから、五分もしないうちに校門の前に黒い車が来るだろう。ちょうどいいから帰ろっと。
自分のと清のカバンを担いで清を抱き上げた。