正義は誰が決める?
\♪〜メッセージ♪〜メッセージ/
メッセージの受信を知らせる音にちらりと横の清を見れば、
「違う」
と即座に否定し、首を振った。
あれから家に帰って数時間で目を覚ました清に合わせ、夕飯を食べた。 洗い物は置いておいたら誰かがやってくれるので、僕たちは食後使ったお皿を水桶に付けるだけでいい。
すこし濡れてしまった手でスマホの電源をつける。こんな時ほど無駄に高性能な防水のスマホを買っておいてよかったと思うことはない。
メールはつい最近情報屋へ送った依頼の返事だった。読みにくいように文中には沢山の誤字や脱字、ローマ字や英語表記だ。ロシア語なんかの独自言語以外なら、イタリア語やドイツ語などなんでもありで読みにく言ったら無い。
しかも要約すると近いうちに家に来る、と言うひどく曖昧でしょうもないものだ。心の底から面倒臭い。
こいつの“近いうち”は本当に近いから、多分今日か明日にアタリをつけた。さっさとご飯を食べて準備をしよう。
「清、今日か明日にあいつが来る。
ぷきゅーと一緒に留守番よろしくね」
「分かった」
こくりと頷いた清の頭を撫でると、コップとお茶を持った清が後ろに並んだ。アヒルの子のようでとても可愛い。
「……?ごちそうさま?」
「うん。ごちそうさま」
手を合わせてごちそうさまと言い合えば、清は嬉しそうに笑った。
清はこの後ピアノのレッスンがあるから、まだ外行きのワンピースのままだ。 白いワンピースの清楚な雰囲気は清にとてもよく似合っている。 僕もこれから出かける予定があるから着替えなければいけないけど、清を一人にするのは心配だな。
爺を置こうかな…。それをすると今度こそ親がうるさいだろうし……。でも心配だなぁ。どうしよう。誰か呼ぼうかな。
そうして悩んでいる間に支度は終わり、清のピアノのレッスンの時間も差し迫っていた。
「じゃあ、行ってくる」
「…うん」
「にゃぁ」
「ごめんね、行ってきます」
清とぷきゅーに笑いかけてドアを開けると目の前には翠希「みずき」。別名。情報屋 琥珀。いつも手を貸してもらってる情報屋で、さっき言っていたあいつだ。
黒い服装の僕とは反対の白い服装。
白いジーンズに白のTシャツ。
一言で言うと天使と悪魔。
それくらい対照的。
いつもの事なので、あまり気にはしないが、たまにどこで服を買ってるのか気になる。まぁ、聞いてもどうせはぐらかして答えてくれないけど。
「行くよ」
「あぁ」
翠希に一声かけで歩き出した。
どこに行くかは決めてないけど、自然と足が進む。
一つ目の路地裏を通り過ぎてから翠希が徐々に早歩きになり、いつの間にか前を歩く。
どこに行くか決めなくても翠希に付いていけば適当に安全な場所へ連れて行ってくれる。
「BARでいいか?」
「十分」
少し振り返った翠希が聞いてきた。
それに答えてからはしばらく無言。
それでも嫌な気がしないのは多分、お互いに興味が無いからだと思う。
まぁ、いつもと同じだからって言った方がいいか。
何度か翠希の後に続いて歩いているうちに、何度路地を曲がっても離れない足音が複数ある事に気付いた。
きっと、翠希は気付いていない。
黙々と次の角を曲がろうとした翠希を前に、どうしようかと考えたが、とりあえず声をかけてみた。
「翠希」
チラリと振り返った翠希は驚いたような表情で、こくりとと頷いた。
どうやら名前を呼ばれて振り向いて、俺の後の尾行が下手な2人組に気付いたらしい。
「……翡翠hisui」
翠希はその言葉を残して右の路地へ曲がった。
俺は少し先の左の路地へ曲がって付けてるやつを巻くために走った。
翠希が言っていた翡翠は、誰かの名前ではなくBARの呼び名。
翡翠、翡雀higara、翡桜hiou、翡葉hiyou、翠扇hisen、翠恋hiren、の6つがある。
まぁ、今日みたいに尾行された時の隠れ家的な知る人ぞ知るって感じのBAR。
翡翠はここから遠い……はず。
記憶が正しければ。
しばらく行ってなかったからなぁ、なんて思いながら記憶を頼りにしばらく走った。
途中からは疲れたので、尾行してる奴も巻けたので歩いて翡翠に向かった。