掌ほどの想い出
3
娘の声に急かされるように車を降りると、目に染み入るような新緑と共に、初夏とは少し言い難い冷ややかな突風が、私にきつく当たってきた。まるで、私の逡巡を苛むように。
――わかってます。私には、今のこの場所が一番です。
「うっわぁ、やっぱきれいだなぁ」
「うんっ! すごいねー、ママ?」
夫と娘に向かって、にこやかに頷きつつも。
でも私には。
この先、どんなに見事な情景を見る事があっても、きっと、あの時の、あの一瞬の掌ほどの小さな薄青に、勝る物はないのかな、と思いつつ、目の前の風景をぼんやりと見つめていた。
――わかってます。私には、今のこの場所が一番です。
「うっわぁ、やっぱきれいだなぁ」
「うんっ! すごいねー、ママ?」
夫と娘に向かって、にこやかに頷きつつも。
でも私には。
この先、どんなに見事な情景を見る事があっても、きっと、あの時の、あの一瞬の掌ほどの小さな薄青に、勝る物はないのかな、と思いつつ、目の前の風景をぼんやりと見つめていた。