ラグタイム
「傷は深くないから大丈夫だな」

ズボンのポケットから絆創膏(バンソウコウ)を取り出すと、血が出ている人差し指に貼った。

「ああ、ありがとう。

何か悪いな」

照れくさそうに笑った夕貴の顔を見ていたら、
「仕事中は悪かったな」

俺は謝っていた。

「えっ?」

聞き返した夕貴に、
「接点を持つなとか言った」

俺が言ったら彼は思い出したと言う顔をした。

忘れてたのかよ…。

俺の頭の中を読んだのか、
「ごめん、来週の水曜日のことで頭がいっぱいだったんだ」

夕貴がごめんと言うようにあわせた両手を前に出した。

「来週の水曜日に藤本さんがくるって言うから、もうそれどころじゃなくて…」

夕貴はアハハと笑ったのだった。
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