ラグタイム
武人とは名前を呼びあう関係になったうえに、料理を教わっていたくらい仲良くなっていた。

だけどそれは、あたしが男だったからだ。

あたしが男だったから、武人は仲良くしていた。

「もちろん、夕貴には今月いっぱいでここを辞めてもらう。

朝貴が帰ってくるまでの期間限定だったからな」

「俺はそう言うことを言いたいんじゃないですよ!

騙したことに怒っているんです!」

藤本さんをさえぎるように、武人が言った。

「武人」

兄貴が名前を呼んで、武人の肩をつかんだ。

「俺が静絵と一緒に出て行ったばっかりに、夕貴は自分の性別を偽って『ラグタイム』で働くことになってしまった。

怒られるのは夕貴じゃなくて、俺の方だ」

「さわるなよ!」

兄貴の言葉をさえぎるように、武人が肩に置かれた手を振り払った。
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