ラグタイム
チーンと、電子レンジが鳴った。

玉ねぎが温め終わったらしい。

早く鶏肉を切って、油をひいて温めたフライパンに入れて一緒に炒めないと、昼ご飯が夕ご飯になっちゃう…。

頭の中ではわかっているけれど、躰が動かない。

何もできなくて固まっているあたしに、
「――夕貴…」

藤本さんが名前を呼んだ。

彼の手によってあたしの手から包丁が離れたかと思ったら、まな板のうえに置かれた。

「――あの…」

次に行った藤本さんの行動に、あたしは戸惑った。

藤本さんがあたしを抱きしめてきたからだ。

どうして?

一体何があったって言うの?

何でこんなことをするの?

藤本さんの腕の中で戸惑っているあたしに、
「――俺じゃダメか?」

耳元で、ささやくように言ってきた。
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