今夜、上司と恋します
「また、会社で」
「はい。今日はすみません。ありがとうございました」
「いや…気にするな」
「はい」
佐久間さんは少しだけ目を細める。
相変わらず、代金を運転手に渡して私に支払いをさせない。
タクシーが発車してから、少しして後ろを振り向く。
佐久間さんは立ち去る事なく、ずっと私の乗っているタクシーを見つめていた。
ドキンっとうるさいぐらいに心臓が鳴った。
私が見た事に気付いたかな。
結構離れていたから、気付いていないかもしれない。
好きだと自覚してしまったら、その全てが好きだと思ってどうしようもない。
家に到着した私は、真っ直ぐにベッドに向かい体を投げ出した。
アラームだけしておこう。
カバンから携帯を取り出して画面を見ると、着信一件。
誰だ?
確認すると、それは広瀬からだった。
広瀬!?
着信があった時間は今から一時間前。
……電話をかけるべき?
電話があったのはその一度だけで、他にはメールも何も来ていない。
5コールして出なかったら、寝てるって事にして会社で話してみよう。
大きく息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出す。
それから意を決して広瀬の番号を押した。