今夜、上司と恋します


耳元でコール音がすぐに鳴った。


プルルルル、一回。

プルルルル、二回。

プルルルル、三回。

プルルルル、四回。


次で最後。


出て欲しい様な、出て欲しくない様な気持ちだ。



プルルっと鳴ったコール音は最後まで鳴る事なく途切れる。
代わりに聞こえて来たのは、


「……はい」


――――――広瀬の声。



「あ。えと、電話貰ってたから。ごめん、起こしたかな」

「いや。…嘘、本当はちょっと寝てた」

「そうだったんだ。ごめん」

「……」

「……」



重苦しい空気が流れる。
何を言われるんだろうか。


ドクドクと鼓動が速くなって、緊張が走った。



先に口を開いたのは広瀬だった。



「あのさ。坂本の好きな相手っての、佐久間さんなんだろ?」

「え?」



何で?
広瀬は断言する様な言い方だ。



「俺、あの後10分ぐらいでホテル出たんだよ。
流石に歩く元気なかったし、タクシー拾ったんだけどさ。
俺の家会社の前通らないといけないし。
……そこで二人を見た」

「……」


そっか。あれ、見られてたんだ。

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