今夜、上司と恋します


気合い入れないと。

小声で「よし!」と言ってから、私はまた作業に戻った。


段々と出社する人が増えて来て、私は手を止めると入口を見つめた。


……佐久間さん、まだかな。


ぼーっと入口を見つめていたら、そこから現れたのは広瀬で目を見開く。
広瀬もこっちに気付いて、ばっちり目が合ってしまった。



「おはよ、坂本」

「うん、おはよ。広瀬」


少しだけ眉を下げながら、広瀬は微笑んだ。



「佐久間さんまだなのか」

「…そうみたい」

「そっか。坂本寝てないだろ?クマ出来てる。隠し切れてねえよ」

「まじか」

「ぶっさいくが更にぶっさいくになるっつーの」

「うるさいな」

「そうそう、その調子。お前には笑った顔のが似合うよ」

「……ありがと」

「はい。どういたしまして」

「ふふ」



私と広瀬は顔を見合わせると、クスクスと笑った。
広瀬のお陰でちゃんと笑えた気がする。


感謝しても足りない。


そんな私達の前に現れたのは。

……佐久間さんだ。



広瀬は佐久間さんを見るなり、顔を強張らせる。

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