今夜、上司と恋します



「……最後に、キスしたら…ダメか?」

「……ダメ」

「じゃあ…抱き締めるぐらいさせて」

「……」



ぎゅうっと洋服の裾を掴むと、私は小さく頷く。



ダメ、なんて。


言えなかった。



顔を上げて、力なく微笑む広瀬の目からは涙が線となって零れ落ちていたから。




一歩一歩近付く広瀬は、ゆっくりと腕を伸ばすと私の背中に回す。
体温を。存在を…確かめるように、ぎゅうっと私の体を包み込む。



「……、坂本」

「……」



広瀬はぎゅうぎゅうと私の事を苦しいぐらいに抱き締めた。




「……だい、すきだよ。まじで。他には何もいらない、ぐらい」

「……ひろ、せ」

「辛い事、言わせて…ごめん。ありがとう」

「……っ」



そっと、私の背中に回した腕を離して距離を取る。
それから広瀬は涙でぐちゃぐちゃの顔で微笑んだんだ。
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