今夜、上司と恋します


「……」


佐久間さんはポケットから携帯灰皿を取り出すと、火を消した。
それをまた元の場所へ戻しながら、一歩一歩私に近付く。



「…何で、いるんですか」



やっと、強く思っていた疑問が口から出てくれた。
そう投げかけると、佐久間さんは肩をピクリと揺らす。


眉を下げながらふっと笑った佐久間さん。



「……さっきの、坂本の様子が気になってな。
広瀬と一緒にいるならそれでいいと思ったんだ。
一時間待って来なかったら帰ろうと思った」

「……」

「だけど、帰って来たんだな。広瀬はどうしたんだ?」

「……帰って貰いました」



何で、こんな待ち伏せする様な真似するんだろう。
どこまで私の事を掻き乱すのだろう。


佐久間さんという人間は。



「そうか。もしかしたら、坂本はまた自分を責めてるんじゃないか。と、思ってな」

「……」

「いや、違うな」



額に手をつけると、佐久間さんは喉を鳴らす。
自嘲する様な笑みを見せた後、真っ直ぐに私を見つめた。



「俺は、ただ坂本に会いたかった。心配だったとかは、その口実だ」

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