今夜、上司と恋します
*
車に乗り込んだ後、佐久間さんが連れて行ってくれたのは“あの”居酒屋だ。
初めて二人が意気投合した、あの居酒屋。
そして、ホテル前に行く事が多い居酒屋。
「好きに頼むといい」
「……」
佐久間さんは特に気にしていないのか、メニューを私に渡してからおしぼりで手を拭いていた。
仕事が終わった後にここに来て、ホテルってのがこの居酒屋に来た時のお決まりだったのに。
佐久間さん、何考えてるんだろ。
少しだけ、期待してしまう自分がいて恥ずかしくなる。
「ビールと、枝豆」
「ふ、坂本はいつもそれだな」
「好きなんです」
「俺はウーロン茶だな」
「飲まないんですか」
「運転がある」
「あ。じゃあ、私も…」
「いい。俺の事は気にせず飲め」
「……はい」
佐久間さんは手を上げて店員を呼び、注文をしてくれた。
それから運ばれてきたビールジョッキを手に持つと乾杯をする。
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
ぐいっとウーロン茶を飲んだ後、佐久間さんが口を開いた。