今夜、上司と恋します
「例えば、坂本はそれを知ってどうする」
「え?」
佐久間さんは相変わらず難しい顔をしたままだ。
こっちが尋ねたのに、逆に質問された私は素っ頓狂な声しか出なかった。
「知ったとして。
……もう俺に抱かれたくないとでも言うのか?」
「……」
「どうなんだ?」
それって。
他に好きな人がいるけど、私を抱きたいって事かな。
こりゃ美沙都に男運悪いって言われるよ。
本当に体目当てでしかないんだから。
少しだけズキンと胸が痛んだ。
そんな痛みを誤魔化す様に、私は口を開く。
「……佐久間さんの自由です。
さっきも言いましたが、私にそういった相手はいませんし。
佐久間さんがその相手に悪いって思うのなら、やめるべきだとは思いますが」
「……成程な」
そう呟くと、佐久間さんはシートベルトを装着する。
何か納得したみたいだけど。
どうやら、その心に決めた相手ってのを教えるつもりはないらしい。
折角聞いたのに。
あっさり教えてくれるとは思ってなかったけどさ。