今夜、上司と恋します
佐久間さんは無言で、車を発進させる。
私も何も言わないまま、窓の外を見つめた。
流れるその景色に見覚えがあって、私は驚きながら佐久間さんの方を見る。
佐久間さんはそんな私を気にも留めず、その場所に到着すると車を停止させた。
「……さ、くまさん」
そう声を漏らすも、佐久間さんは返事をする事なく車をさっさと降りた。
私は慌ててシートベルトを外すと車を降りる。
降りてすぐに佐久間さんに声をかけた。
「佐久間さん!ちょっと待って下さい!」
何でいきなり。
何も言わなかったじゃないか。
だって、ここは。
――――――――――いつも行くホテルだ。
好きな人がいても関係ないって確かに言ったけど。
佐久間さんはそれを私に知られても気にしないの?
その相手はどうでもいいの?
相手に悪いって思わないの?
佐久間さんはぴたりと足を止めると、振り向く。
真っ直ぐな視線に、ドキンと心臓が鳴った。