今夜、上司と恋します
「今日は突然、すまなかった」
「え?」
車を運転しながら、佐久間さんがそう言ったから私は何の事を言ってるのかわからなかった。
「あんな強引な誘い方をして、大人げなかったと思ってる」
「……ああ。いえ、そんな事ないです」
どんな経緯があって、私を抱きたいと思ったのかは検討もつかないけど。
確かに、いつもの佐久間さんとは違ってた様な気もする。
とはいえ、私はそうハッキリと断言出来る程、佐久間さんの事を知らない。
ほんの数ヶ月、体の関係を持ってるだけ。
「ダメだな、坂本といると我慢が出来なくて困る」
「……立派なセクハラ発言ですけど」
「はは。そうだな。ダメ上司だ」
「ええ。会社の皆が今の発言を聞いたら相当驚くと思います」
「言わないでくれよ?」
「約束は出来ません」
とは、言いつつ。
そんな事、口が裂けたって言えるわけなかった。
佐久間さんの好きな人も知らないのに、ペラペラと周りに話せるほど私は口が軽くない。
一応、常識ってものを持ってると思ってるし、セフレって事実を公にする筈もない。
実際、セフレと知られたら遊ばれてる女とレッテルを貼られるのは目に見えている。
私自身、そう思ったりもするから。
だから、美沙都の言葉もわからなくはないんだ。
都合良い女。
悔しくもそうなってしまっているんだ。