レゾンデートル 【短編】僕止めスピンオフ・2



 ケンカもしょっちゅうしたが、それでも裕が言うように5日くらい経つと謝ってきた。たまにスイッチが入ると暴力的になったが、それで私が感じてしまうのだからしょうがない。決して上手いセックスではなくて、フランス人の元カレなんかとは比べようもなかったけど、私が死ぬほど好きだからなにをされても感じた。案外料理が出来る男で、自衛隊自込みの軍隊カレーをうちのキッチンでたまに作ってくれたりすることもあった。二人で食べると美味いな、となぜかしみじみ言われた。そういえば裕は、食べることにも興味がなくて、年頃の食べ盛りの男の子と美味いものを食べに行くような楽しみは一切なかったのだと気づいた。隆が私を誘って日帰りで温泉に行ったりすることもあった。口数が少ない割に、そういうことにさりげなく誘うのは、意外にも私ではなく隆だった。

 こんなことを隆はきっと、裕としてみたかったに違いない。あまりにも違いすぎる生き方の中で、隆はそれでも裕と時と場所を共有した。色々してあげたかったことのほとんどを出来ないままで。

 裕が大学に合格し、北へ旅立った日の夜、隆は「いつか一緒に暮らさないか」と私に言った。私が心の底から欲しくて、隆に遠い未来、自分から要求するはずだったその言葉が、こんなに早く隆の口から出てきた時には、ポカンと口を開けたまま、呆然と彼の顔を眺めた。なんだ、嫌なのか、と訊かれ、私は首を横に振った。言葉が出てこなかった。隆が私のことをそこまで受け入れていたことに驚いた。一瞬で胸が一杯になった。隆を見つめたまま、無言でひとりでに泣いていた。それに隆がうろたえていたのが泣きながら可笑しかった。





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