私の翼 ~奪われた居場所~




今日私は、親に跳ね返された事を悔やむのではなく、
「ただいま」と言ったことと、親に反発したことを嬉しく思う。



私自身は少し変わった。


やばい。結構嬉しいかも。

今、1人自分の部屋でニヤニヤしている私は誰かが見たら大分頭がイカれてると思うだろうが、そんなことは気にならなかった。


とにかく嬉しい。


少しだけど、自分から前に進めたことが嬉しい。


これは、明日迷に報告しなければ!

「……ふふ。」


少々笑みを零しながら、自分でも今帰ってきたばっかりなのにと思いつつ明日の準備をする。

こんなにも早く学校に行きたいと願ったのは初めてではないだろうか。


立ち止まっていた私が一歩進み出した。



いける。


これはいけるぞ。


私は心の中で盛大なガッツポーズをした。












「授業……参観…?」


ただいまwingは美術準備室。


迷に昨日の事を話したらうんと褒めてくれたのもつかのま。
最高に最悪なニュースが流れ込んできました。


「高校なのに、そんなのあるの?」


微妙に震えた声で尋ねる。


「うん。この高校は学力高めでしょ?だから親に来てもらって学力向上を図るってわけ。」


てゆかそれが普通なのか?

いや、それはないか。


しかし、
「それはまずい。」


すばらしくまずい。

「どうして?」

迷がわけがわからんといった表情でこちらを覗き込むが、視線をすんなり返すことが出来ない。


ロボットの様にギギギギと首を曲げ、ゆっくりと口を開く。


「うちの親、学力には大分厳しいから来られたら本当にまずい。」



「ああ、なるほど。」



「まぁ、くるわけないだろうけどねぇ〜♪」




とかほざいてたら…………






ほんとにきたし!

教室の後ろでいかつい顔して2人がたっている。

その下の方には勿論光樹。



この時間は数学だ。



忘れていたが、私は恨みを買っているので先生によく当てられる。


今でもう5問目だ。

授業開始から約5分。
1分間に5回当てられている計算になる。




「○○○○○○○です。」


「正解です。」

また正解。
私は結構頭良い方だからね(確定)






「遅い。」







座ろうと前のめりになって机に両手をついた私の後ろから声が聞こえた。


聞きなれた声。
この声は



「お前はこんな簡単な問題にこんなに時間をかけているのか。」


私のお父さん。



「私的には早く解いたつもりです。」


教室の空気が凍りつく。

さっきまで息子、娘自慢を大声で話していた迷惑なオバさん達もみんな押し黙る。


「ったく。出来損ないはいつまでも出来損ないだな。」


背中から、前から突き刺さる視線に耐えるために唇を強く噛む。


(鉄の味…。)

「何でお前はそんなに出来ないんだ。頭の中腐ってるんじゃないのか?」


「すごいオープンだね。こんな大勢の前でそんな事いっちゃっていいの?」



「黙れ。」


ああ、もう。嫌だなぁ。

みんな見てるじゃん。もう、怖いよ。



そんな言わないでよ。

「そんな怒んないでよ。私も家族でしょ?」


「あんた何か家族じゃないわ。出来損ないと家族だなんて、笑わせないで。」

ふざけんな、ふざけんなよ。


黒板の前の先生もチョークを持ったままこっちを凝視している。

「家族じゃん。家族じゃんかよ!ああ、そうだね!出来損ないでごめんなさい。でもさ、私はいつでもあんたらに認められようと努力したよ!

何をしたってさ。私が何を頑張ったか何て誰も見てないんでしょう!?

私が今何をされてるかもね!!!」


怒りに任せて言の葉を滑り出させた後、机の上の教科書とノートを下に叩き落とした。


今まで見えていなかった場所が見えるようになって、私と彼奴ら以外ははっと息を呑んだ。



『死ね』
『ブス』
『消えろよ』
『最低女』

『裏切り者』


おふざけの落書きにしては、あまりに過激な言葉にクラスのみんなの視線が落ちる。

ついでに先生も気まずそうに視線を逸らす。



今まで静かだったおばさん達もザワザワと騒がしく唄い出す。


そんな中アイツが一言。








「だから何だ。」








は?


「お前を助けてやる気なんざさらさらない。聞いてやっただけ充分だろ。調子にのるんじゃない。クズのくせに。」


いくぞ。とアイツは二人を連れて教室を出て行った。


静まり返った教室。



あぁ、やっぱりそうなんだね。


「はは…っ。あははははっ。





……………ねぇ叶㮈。」


私の言葉を聞き取った叶㮈の肩がビクッと揺れた。






「私の最後の居場所奪ってさぁ、さぞ楽しかったでしょうね?」


冷たい笑顔を顔にはっつけてそう告げた。



叶㮈が激しく震えだす。

でも誰も叶㮈を庇おうとしない。


青星でさえも。




これだけの事があって、自分が本当に正しいのか解らなくなって来ているのだろう。



もう、勝手にしろよ。



これ以上話しかけんな。私が傷つくだけじゃん。
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