ウ・テ・ル・ス
「癌と言ってもね、いろいろな段階があって、幸いなことに真奈美ちゃんのお母さんの発見は早期だ。より詳しい検査をしなければはっきりと言えないが、所見では�期Aという3センチ弱ぐらいの末梢型非小細胞肺癌らしい。これは治療法によっては直せる癌なんだよ。」
 真奈美は、安堵したのか大きなため息とともに、身体の硬直を解いた。
「こうした早期がんは、外科的手術で癌の部分を切り取ったりするんだが、お母さんもご高齢だし身体に大きな負担を強いる治療は難しい。そこで、僕としては切ったり張ったり、ダメージ大きい抗がん剤を投与したりするよりは、重粒子線を癌細胞にあてて退治する治療を進めたいと思っている。」
「治せる可能性があるなら、なんでもやってください。」
「ところが…真奈美ちゃんを虐めるわけじゃないが、その治療は高度先進治療と言って、まだ日本の医療保険制度で認可されていないものだから、医療保険の適用外で高額な治療費が必要なんだ。」
「どれくらいですか?」
「ひと通りの治療で300万円くらい…。」
 しばらく考え込んでしまった真奈美だが、やがて顔をあげると元気な声で言った。
「…わかりました。治療費の問題ならなんとか考えます。母のために検査を進めてください。」
「真奈美ちゃんも大変だが…。お母さんの為にも、とりあえず退院して家でゆっくりしたら、通院で検査を進めることにしよう。」
「よろしくお願いいたします。」
 真奈美は席を立って診察を出かかったが、思いついたように立ち止まった。
「あの…まったく別なこと聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「代理出産について教えてもらえますか?」
「なんだよ、藪から棒に?」
「いえ…最近耳にしたものだから…。」
「僕は専門じゃないんだが…代理出産は、正式には代理母出産といって、文字通りある女性が別の女性に子供を引き渡す目的で妊娠・出産することだよ。たしか法的規制ははっきりないものの日本の学会では禁止しているし、日本ではほとんどおこなわれていないはずだ。」
「具体的にはどんなことをするんですか?」
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