ウ・テ・ル・ス
「はいはい…。」
「まず守本ドクターからお願いできるかしら。」
メディカルマネージャーの森本が書類を開いて報告を始めた。守本ドクターは、このプロジェクトの生殖補助医療全般を担当する。表向きは、秋良からの資金提供により不妊治療を専門とするクリニックを開業しているが、患者ネットワークの中からどうしても子供が欲しくて悩んでいる富裕層を選択して、代理出産を持ちかける営業の役目もしている。
「口コミが広まっているのか、代理出産に対する問い合わせが多くなっている。今月だけでも20件の問い合わせがあった。苦労してこちらから持ちかけていた頃が懐かしいよ。」
「合法なビジネスをしているわけじゃない。宣伝がいき届き過ぎるのも問題だ。」
秋良が守本ドクターの発言に鋭く突っ込む。
「しかし、実際良質な新生児を提供し続けているんだから、依頼者の感謝の口をふさいで回ることは不可能だよ。」
「ウテルスのストックも豊富とは言えませんよ。」
リクルート兼ストックネージャーの三室が割り込んできた。秋良たちは人権の概念が生じないよう日本人代理母をウテルスと呼んでいる。
「実際これ以上依頼が増えたら、対応が出来ないと思います。」
三室の表向きの仕事は、秋良達と作った会員制高級プライベート倶楽部のマネージャー。実際の担当は、日本におけるウテルスのリクルートと管理だ。三室が報告を続けた。
「ストックされている12胎のウテルスのうち、8胎が妊娠中。先日帰国したウテルスは再使用可能かどうかの確認中だから…。現状で稼働できるのは3胎しかない。」
秋良が守本ドクターに再び投げかける。
「ドクター、確認中のウテルスは、どうだ?」
「再使用は無理だろう。」
「出産後に幻聴が聞こえるとか言ってたけど…。」
秀麗もドクターに問いかける。
「自分の遺伝子とまったく関係ない受精卵とはいえ、自分の子宮の中で、自分の血液を通わせて養った新生児を、何度も手放していると、ホルモン異常を併発し、幻聴やうつを引き起こすらしい。どうも母性と関連のある脳の潜在的部分が強いストレスを感じるらしい。大変興味深い症例だけど、学会で発表できないのが残念だよ。」
自分達のビジネスは、女性を壊しているかもしれないという守本ドクターの報告に、男性陣が黙りこむ中、秀麗は顔色ひとつ変えずに言葉を引き取る。
「まず守本ドクターからお願いできるかしら。」
メディカルマネージャーの森本が書類を開いて報告を始めた。守本ドクターは、このプロジェクトの生殖補助医療全般を担当する。表向きは、秋良からの資金提供により不妊治療を専門とするクリニックを開業しているが、患者ネットワークの中からどうしても子供が欲しくて悩んでいる富裕層を選択して、代理出産を持ちかける営業の役目もしている。
「口コミが広まっているのか、代理出産に対する問い合わせが多くなっている。今月だけでも20件の問い合わせがあった。苦労してこちらから持ちかけていた頃が懐かしいよ。」
「合法なビジネスをしているわけじゃない。宣伝がいき届き過ぎるのも問題だ。」
秋良が守本ドクターの発言に鋭く突っ込む。
「しかし、実際良質な新生児を提供し続けているんだから、依頼者の感謝の口をふさいで回ることは不可能だよ。」
「ウテルスのストックも豊富とは言えませんよ。」
リクルート兼ストックネージャーの三室が割り込んできた。秋良たちは人権の概念が生じないよう日本人代理母をウテルスと呼んでいる。
「実際これ以上依頼が増えたら、対応が出来ないと思います。」
三室の表向きの仕事は、秋良達と作った会員制高級プライベート倶楽部のマネージャー。実際の担当は、日本におけるウテルスのリクルートと管理だ。三室が報告を続けた。
「ストックされている12胎のウテルスのうち、8胎が妊娠中。先日帰国したウテルスは再使用可能かどうかの確認中だから…。現状で稼働できるのは3胎しかない。」
秋良が守本ドクターに再び投げかける。
「ドクター、確認中のウテルスは、どうだ?」
「再使用は無理だろう。」
「出産後に幻聴が聞こえるとか言ってたけど…。」
秀麗もドクターに問いかける。
「自分の遺伝子とまったく関係ない受精卵とはいえ、自分の子宮の中で、自分の血液を通わせて養った新生児を、何度も手放していると、ホルモン異常を併発し、幻聴やうつを引き起こすらしい。どうも母性と関連のある脳の潜在的部分が強いストレスを感じるらしい。大変興味深い症例だけど、学会で発表できないのが残念だよ。」
自分達のビジネスは、女性を壊しているかもしれないという守本ドクターの報告に、男性陣が黙りこむ中、秀麗は顔色ひとつ変えずに言葉を引き取る。