ウ・テ・ル・ス
「さすがプロよね。『久しぶりにダイアモンドの原石を見つけた気分だ。』なんて言って…。」
「嘘でしょう…。」
「嘘じゃないわよ。ルックスもスタイルもいいので女優向きだから、今度カメラチェックで事務所に来てくれって言われたわ。それまで、スキンケアを欠かさないようにって、ほら、こんなに化粧品買ってくれたの。」
 ミナミは、手に持っていた高級化粧品のブランド名が入った手提げ袋を見せた。中には、一杯の基礎化粧品が入っている。
「事務所ってどこ?」
「どこって…そう、名刺貰ったわ。」
 ミナミが差し出した名刺をのぞき込む真奈美。そこに、この前家の前でたむろしていた男達の名刺と同じ社名を認めて、彼女の足がすくんだ。
「ミナミ。化粧品よこしなさい!返してくるから。」
「お姉ちゃん、どうして?」
 ものすごい剣幕で、化粧品の手提げ袋を奪う真奈美に、ミナミも抵抗が出来ない。
「どうもこうもないわ。こんな事務所、芸能プロダクションでも何でもない。ミナミは、お母さんの洗濯物持って家に帰ってなさい。」
 真奈美はそう言い残すと憤然と歩きだした。

 名刺にあった事務所は、繁華街の通りをはずれて路地に入った雑居ビルの4階にある。事務所には、顧客向けのカウンターがあるわけでなし、ただ殺伐とした事務所に応接セットがひとつ。真奈美はそこに腰掛けて下品にニヤつく男達に囲まれていた。
「とにかく、これはお返ししますから。」
 応接セットのくたびれた机の上に化粧品の袋を置いた。
「そうですか、私どもはお力になろうかと思って声をかけたんですけどね。」
「月々の返済はちゃんとします。」
「その月々の返済もおたくひとりでは大変でしょう。妹さんにも協力して頂ければ私どもも安心なんですけどね。」
「そう、現役女子高生だったら、結構稼げる仕事を紹介できるぜ。」
 別の男が口をはさんできた。真奈美は、その男を睨みつけた。
「家族には近寄らないでください。」
 ついに、中央の男が真奈美に身を寄せて本性を見せた。
「森さん、俺達を甘く見ちゃこまるぜ。利子を含めて負債を完済してもらう迄、俺たちはあんただけではなく、あんたの家族全員に追い込みをかける。あんたがだめなら、妹に稼いでもらうのは当然だろう。」
 真奈美も負けていない。
「そんな脅しを言うなら、私にだって…。」
 男は真奈美に最後まで言わせなかった。
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