ウ・テ・ル・ス
突然興奮する秋良に、真奈美も言葉を失った。今まで感情のひとかけらも見せたことが無い秋良の珍しい反応だった。一方で、すぐ我にかえった秋良は、こんなに興奮した自分に、自分自身驚いていた。商売柄、人に悪く言われることには慣れている。しかし、どんなことを言われても、いつもは平然と受け流せるのに。なんで真奈美の言葉はこんなに自分の感情を逆なでするのか不思議だった。
「興奮して悪かった。デートはまたの機会にしよう。」
そう言って立ち上がりかけた秋良の腕を真奈美が掴んだ。
「あなたが私を誘った理由は、デートなんかじゃないでしょ。」
秋良が座り直しても、真奈美は掴んだ腕を離さなかった。
「あなたと契約したら、サロゲートマザーにもならなきゃいけないの?」
秋良はしばらく黙って、真剣なまなざしで問いかける真奈美を見つめていた。
「…だいぶ勉強したようだな。」
「どうなの。」
「前にも言ったと思うが、小指の爪の先ですら、君の身体の一部を切って奪ったりしない。うちはホストマザー専門だ。」
真奈美は相変わらず秋良の腕を掴んだまま、大きなため息をついて空を見上げた。何か思案しているようだった。秋良はそんな彼女の顔を黙って見守った。街路樹の葉からこぼれてくる陽が、悪戯な子供のように彼女の顔の上をはしゃぎまわる。そんな気まぐれな陽を受け入れながら、彼女は薄く眼を開けて考えにふけっていた。
一方、腕をつかまれた秋良は、自分達が逢っている理由をしばし忘れて、そんな真奈美を眺めていた。はた目から見れば、お揃いの色を身にまとった恋人同士が、甘く緩やかな時間を過ごしているように見えたろう。しかし、真奈美が秋良の腕を離すと、彼も現実に引き戻される。
「わかった…検査を受けるわ。」
「そうか…担当に連絡させる。」
秋良は席を立った。
「ちょっと待って…。」
再び真奈美は腕を取って秋良を留めた。そして、言いにくそうにしながらとぎれとぎれに言葉を吐きだした。
「出来れば…、お願いが…あるんだけど…」
そう言いかけた真奈美の話を遮って、秋良がポケットから白い封筒を出した。
「忘れていた…仕事の話しとなれば、今日はデートじゃない。この前来てもらった分と今日の分も含めた日当だ。」
白い封筒の中身を確認した真奈美は、椅子に座ったまま秋良を睨み上げた。
「あなたは、本当に悪魔だわ。」
「興奮して悪かった。デートはまたの機会にしよう。」
そう言って立ち上がりかけた秋良の腕を真奈美が掴んだ。
「あなたが私を誘った理由は、デートなんかじゃないでしょ。」
秋良が座り直しても、真奈美は掴んだ腕を離さなかった。
「あなたと契約したら、サロゲートマザーにもならなきゃいけないの?」
秋良はしばらく黙って、真剣なまなざしで問いかける真奈美を見つめていた。
「…だいぶ勉強したようだな。」
「どうなの。」
「前にも言ったと思うが、小指の爪の先ですら、君の身体の一部を切って奪ったりしない。うちはホストマザー専門だ。」
真奈美は相変わらず秋良の腕を掴んだまま、大きなため息をついて空を見上げた。何か思案しているようだった。秋良はそんな彼女の顔を黙って見守った。街路樹の葉からこぼれてくる陽が、悪戯な子供のように彼女の顔の上をはしゃぎまわる。そんな気まぐれな陽を受け入れながら、彼女は薄く眼を開けて考えにふけっていた。
一方、腕をつかまれた秋良は、自分達が逢っている理由をしばし忘れて、そんな真奈美を眺めていた。はた目から見れば、お揃いの色を身にまとった恋人同士が、甘く緩やかな時間を過ごしているように見えたろう。しかし、真奈美が秋良の腕を離すと、彼も現実に引き戻される。
「わかった…検査を受けるわ。」
「そうか…担当に連絡させる。」
秋良は席を立った。
「ちょっと待って…。」
再び真奈美は腕を取って秋良を留めた。そして、言いにくそうにしながらとぎれとぎれに言葉を吐きだした。
「出来れば…、お願いが…あるんだけど…」
そう言いかけた真奈美の話を遮って、秋良がポケットから白い封筒を出した。
「忘れていた…仕事の話しとなれば、今日はデートじゃない。この前来てもらった分と今日の分も含めた日当だ。」
白い封筒の中身を確認した真奈美は、椅子に座ったまま秋良を睨み上げた。
「あなたは、本当に悪魔だわ。」