ウ・テ・ル・ス
 秋良はその言葉を聞くと、唇の隅に笑みを浮かべながらカフェを出て行く。その後ろ姿を睨み続けながら、真奈美は身を焼くような悔しさに耐えていた。彼女には珍しく睨めつける眼が濡れていた。封筒の中に入っていた日当の金額は、明日に迫った返済金の額と同額だったのだ。
『なんであんな悪魔が、あたしのおとぎ話に出て来るのよ。』
 真奈美は、溢れて来る涙を拭おうともせずに唇をかんだ。

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