ウ・テ・ル・ス
 妊娠初期(〜3週)お腹の赤ちゃんの大きさは約1センチ。真奈美は熱っぽくなり。体にだるさを感じる。
「最近さ、おっぱいがはってきて、しかも便秘がちなのよね。」
「そんなこと、誰も聞いていない。」
 家で秋良と食事をとりながらの真奈美のぐちに、秋良は箸も止めずに取り合うことがなかった。

「もしもし、姉さん?三室です。」
『あら、ご無沙汰しています。』
 三室のスマートフォンから、真奈美の元気な声が聞こえてきた。
「元気そうですね。」
『ええ、なんとか。』
「身体の具合は?」
『妊娠なんて初めてですから、身体の変化に戸惑っています。』
「産むんですか?」
『やだ三室さん、もちろんでしょ。』
「そうですか…。」
 電話口でしばし三室は言いごもっていた。
「産むのなら、家族の皆さんも大変ですね。」
『言ってませんでしたっけ…。家には戻っていないんです。』
「嘘、だったら何処に居るんです。」
『前のように秋良さんの部屋で暮らしています。』
「ええっ!」
 三室はスマートフォンを落としそうになった。
「大丈夫ですか?」
『秋良さんは黙って家に入れてくれました。』
「嫌じゃないんですか?」
『別に。』
「許したんですか?」
『いいえ、一生許しません。』
「まさか、復讐しようと…。」
『魅力的な言葉ですけど、今はそんな気には…。』
「だったら、なぜ…。」
『逃げるのは簡単です。でも、お腹の赤ちゃんから父親を取り上げることはできません。』
「でも社長は…。」
『わかっています。今の秋良さんはまるで父親である自覚がありません。』
「もしかしたら、生まれた赤ちゃんも取り上げられてしまうかもしれませんよ。」
『わたしも命がけです。お腹の中の子も、その子の父親も、決して失うわけにはいかないから…。』
 宅配便の姉ちゃんが、これほどの女性だったとは…。三室は畏敬の念を持って、真奈美の言葉を聞いた。

 妊娠2カ月(4〜7週)お腹の赤ちゃんの大きさは約2センチ。あいかわらず基礎体温は高め。子宮は、手の握りこぶしぐらいの大きさになる。お腹のふくらみは、それほど目立たないが、徐々に大きくなる子宮に膀胱や直腸が圧迫されるので、ますます尿が近く、便秘も酷くなる。
「アツツッ…。足がつった…。」
 真奈美は洗濯物を畳む最中に襲ってきた足の付け根の痛みを、必死に秋良に訴える
「マッサージしてよ。」
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