ウ・テ・ル・ス
 もちろん秋良は、読んでいる雑誌から顔も上げず取り合わない。

 妊娠3カ月(8〜11週)お腹の赤ちゃんの大きさは約7センチ。それほど目立たないが、真奈美のお腹が、少し膨らんだようだ。テレビを見ていた真奈美が、牛丼のCMで口をふさぎながらトイレに駆け込むようになった。真奈美がげっそりした顔で戻ってきた。
「ところで、今日の晩飯は?」
「嘘でしょ…つわりで苦しんでいる私によく聞けるわよね。」
「俺だけ外に食べに行くぞ。」
「この非国民野郎!」
 結局秋良は、真奈美の見えないところで、カップ麺をすする羽目となった。

 妊娠4カ月(12〜15週)お腹の赤ちゃんの大きさは約15センチ。
「おい、真奈美。いくらなんでも食いすぎじゃないか?」
 ピザ、うどん、ごはん、ケーキ、フルーツ。朝から晩まで兎に角、食べ続ける真奈美に呆れて、秋良が言った。
「どんなに食べても、食欲が尽きないの。わたし…何かに取りつかれているみたい。」
「単に先週まで吐き続けていたリバウンドだろ。」
 真奈美は料理を作る過程でもう口に入れてしまうので、完成された料理が秋良の前に並ぶことが無かった。

 妊娠5カ月(16〜19週)お腹の赤ちゃんの大きさは約23センチ。真奈美のバストがワンサイズ大きくなってきたようだ。ウエスト回りやおしりにも脂肪がついてきて、体全体がふっくらしてきた。服もいよいよ普段のモノでは着ることができなくなった。
「なんで俺が買い物に付き合わなければならないんだ。」
「だって、最近身体が重くなったせいか疲れやすくて…。なんかあったら大変でしょ。」
 マタニティウエアの買い物で銀座三越に来たふたり。真奈美はせっせとマタニティウエアを選び、秋良はせっせと支払いをする。三越でも真奈美は頻繁にトイレへ通った。
「あの田舎娘、この前見た時より太ったわね。だから妊娠は嫌なのよ…。でもとりあえず順調のようね。」
 トイレへいった真奈美を待つ秋良が、背後から声をかけられた。振り返って見るとサングラスをかけた代議士夫人が、沢山の買い物袋を持った秘書たちを引き連れて秋良の傍に立っていた。意外なところでの遭遇に、秋良も戸惑いを隠せない。代議士夫人は、かまわず言葉を続けた。
「今5カ月くらいかしら。」
「はい。」
「マタニティのお買いものなのね。そろそろお腹が出てきたのかしら?」
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