AM5:00〜8年越しの約束〜
2人乗りのブランコに腰を下ろす。
「ホットのイチゴミルクって美味いか?」
「…イチゴミルクは冷たくても、温かくても美味しいんです」
若干優のセンスに引く俺を偉そうに否定する優。
8年前もよくこのやり取りをして笑い合っていたことを思い出す。
「…懐かしい」
「え…?」
「…いいや、なんでもない」
優に濁した返事をした後、まだ朝日すら登ってない暗闇な朝の公園を一通り眺めた。
8年前の高校生だったあの頃はこんな時間に出掛けることすらドキドキした。
「…なぁ、優」
「なに?」
「人の記憶って意外と消えないものだな」
「え?」
「俺さ、ここに来るの…あの日以来なんだ」
「……」
「それなのにここに来るまで1回も迷うことなく来れた…」
無我夢中でここに走って来る時、不思議と迷うことはなかった。
身体が覚えていたかの様に、ただ真っ直ぐここの道のりを最短で走って来た。
「あたしも…あれ以来ここに来るの初めてなの。
でね、あの頃は功ちゃんに早く会いたくて走って来てたけど、今日は歩いて来たの。
ゆっくり、ゆっくり歩いてここに来たんだ」
「優も迷わなかったのかよ」
そう優に聞くと、優はニッコリ笑った。
「8年前でも何度走ってここに来たと思ってるの?
迷うわけないじゃん」
“迷うわけがない”
その優の言葉に何故か俺はホッとするような、
そして、泣きそうな気持ちになった。
それはまるで、あの頃の自分を今でも大切にしてくれている気がしたからだ。