凪の海
汀怜奈は、話しの流れ上、断るわけには行かなかった。ああ、また肖像権を管理するDECCAのマネージャーに怒られてしまう。
マルティン氏がカメラに三脚を立てて、セルフシャッターをセット。で二人が笑顔でカメラに収まる間、汀怜奈は思い切って切り出してみた。
「修理は、マルティンさんご自身でやっていただけるのですか?」
「いや、私は今注文の本数を結構抱えていて…この程度の修理なら弟子にやらせようかと…」
「弟子?」
「ええ、セニョリータ・ムラセと同じ日本人で…でも、結構出来る奴なんです…だめですか?」
「いえ…そんなことはないです…そのお弟子さんは今どちらに?」
「ああ、今は木材の選定で山へ行ってます。明後日には帰ってくる予定ですが…。」
「そうですか、そうですか…。」
佑樹はやっぱりここで頑張っているんだ。汀怜奈の顔に自然と笑が浮かんだ。
汀怜奈は明日ホテルをチェックアウトして、帰国しなければならない。修理後のギターの送り先をマルティン氏と確認した後、工房を出た。
どれほどの時間を工房で過ごしたのか、あたりはもうすっかり夕方になっていたので、バルで休みながら一杯やろうと考えた。夜も更けて満天の星空の下で、ライトアップされたアルハンブラ宮殿を眺める。脇でジプシーの二人組がフラメンコギターを、バルの客に披露している。軽快なギターの音色をBGMに聞きながら、まるで夢のような気持ちになった。
佑樹がここで頑張っている。師匠にギター材の選定を任されているくらいだから、師匠にもだいぶ信頼されているに違いない。もともと、器用で耳のいい佑樹のことだ。それは、当たり前の事なのかもしれない。今日会うことはできなかったが、ここで佑樹が頑張っていることが知れただけで十分だ。会いたいという気持ちは収まらないけれども、今日はこれで満足しよう。またどうしても会いたい衝動が爆発したら、ここにギターを修理しに来れば良いのだから。
バルをチェックすると、汀怜奈はさくらんぼほどの小さなの満足感を口に含みながら、アルバイシンの丘を下りて行った。坂の途中でアルハンブラ宮殿を眺めると、宮殿の方から吹いてくる風が夜になって少し肌に冷たく、とてもとても心地よかった。
マルティン氏がカメラに三脚を立てて、セルフシャッターをセット。で二人が笑顔でカメラに収まる間、汀怜奈は思い切って切り出してみた。
「修理は、マルティンさんご自身でやっていただけるのですか?」
「いや、私は今注文の本数を結構抱えていて…この程度の修理なら弟子にやらせようかと…」
「弟子?」
「ええ、セニョリータ・ムラセと同じ日本人で…でも、結構出来る奴なんです…だめですか?」
「いえ…そんなことはないです…そのお弟子さんは今どちらに?」
「ああ、今は木材の選定で山へ行ってます。明後日には帰ってくる予定ですが…。」
「そうですか、そうですか…。」
佑樹はやっぱりここで頑張っているんだ。汀怜奈の顔に自然と笑が浮かんだ。
汀怜奈は明日ホテルをチェックアウトして、帰国しなければならない。修理後のギターの送り先をマルティン氏と確認した後、工房を出た。
どれほどの時間を工房で過ごしたのか、あたりはもうすっかり夕方になっていたので、バルで休みながら一杯やろうと考えた。夜も更けて満天の星空の下で、ライトアップされたアルハンブラ宮殿を眺める。脇でジプシーの二人組がフラメンコギターを、バルの客に披露している。軽快なギターの音色をBGMに聞きながら、まるで夢のような気持ちになった。
佑樹がここで頑張っている。師匠にギター材の選定を任されているくらいだから、師匠にもだいぶ信頼されているに違いない。もともと、器用で耳のいい佑樹のことだ。それは、当たり前の事なのかもしれない。今日会うことはできなかったが、ここで佑樹が頑張っていることが知れただけで十分だ。会いたいという気持ちは収まらないけれども、今日はこれで満足しよう。またどうしても会いたい衝動が爆発したら、ここにギターを修理しに来れば良いのだから。
バルをチェックすると、汀怜奈はさくらんぼほどの小さなの満足感を口に含みながら、アルバイシンの丘を下りて行った。坂の途中でアルハンブラ宮殿を眺めると、宮殿の方から吹いてくる風が夜になって少し肌に冷たく、とてもとても心地よかった。