凪の海
先輩は、やがて首を振りながら、フロントカウンターから離れると、イラついた表情で長い髪をかきむしり、腕組みをして、どかっとソファーに腰掛ける。その細く白い二の腕と艶やかな黒い髪の対比が、このスペインの地には似つかわしくないエキゾチックな色香を漂わせた。こんな非常事態に不謹慎と諫められるとは思うが、佑樹が始めて先輩をセクシーだと感じた瞬間である。
佑樹は吸い寄せられるように、汀怜奈を見続けた。これだけ見つめれば、見つめられる当人に気づかれないわけがない。果たして、汀怜奈はホテルの玄関に佇む佑樹を発見したのである。
『確かに、佑樹さんでしたわよね…だって、私の名前を呼んでらしたし…』
汀怜奈は、佑樹が去っていく後ろ姿を見送ると、小走りにホテルの部屋に戻って、ベットの上で枕を抱えた。なぜか顔が赤くなっている自分が不思議だった。
地震との遭遇と思いがけない佑樹との再会。驚くことばかりで、汀怜奈はどうも頭の整理ができないようだ。
部屋の電話が鳴った。フロントから汀怜奈の問い合わせの返事がやっと来たが、この地震で、グラナダの交通網は完全にストップしてしまったとのこと。どうも、2〜3日はこのホテルから動けないようだった。
しかし、現実を示したホテルからの電話は、汀怜奈の頭を冷やしてくれた。多少、物事が冷静に考えられるようになってきたのだ。
汀怜奈は、曲がりなりにも世界的なギタリスタである。この足止めで心配をかけたり、迷惑をかけてしまう人々が大勢いる。彼女は自分が取るべきタスクリストを作り上げると、ひとつひとつやっていくことにした。幸い、通信網は遮断されていないので、マネージャーや事務所や母親に連絡をとって、非常事態へ対処した。
ひと通りのタスクを終了させると、なんだかお腹が減ってきた。そういえば、今朝の地震があってから、何も口にしていない。ホテルに問い合わせると、ルームサービスは無理だが、ダイニングサロンに来てくれれば、食事は準備できるとのこと。
部屋を出てサロンの席に落ち着き、遅い朝食をとっていると、再び自転車にまたがる佑樹の姿が目に浮かんできた。
佑樹は吸い寄せられるように、汀怜奈を見続けた。これだけ見つめれば、見つめられる当人に気づかれないわけがない。果たして、汀怜奈はホテルの玄関に佇む佑樹を発見したのである。
『確かに、佑樹さんでしたわよね…だって、私の名前を呼んでらしたし…』
汀怜奈は、佑樹が去っていく後ろ姿を見送ると、小走りにホテルの部屋に戻って、ベットの上で枕を抱えた。なぜか顔が赤くなっている自分が不思議だった。
地震との遭遇と思いがけない佑樹との再会。驚くことばかりで、汀怜奈はどうも頭の整理ができないようだ。
部屋の電話が鳴った。フロントから汀怜奈の問い合わせの返事がやっと来たが、この地震で、グラナダの交通網は完全にストップしてしまったとのこと。どうも、2〜3日はこのホテルから動けないようだった。
しかし、現実を示したホテルからの電話は、汀怜奈の頭を冷やしてくれた。多少、物事が冷静に考えられるようになってきたのだ。
汀怜奈は、曲がりなりにも世界的なギタリスタである。この足止めで心配をかけたり、迷惑をかけてしまう人々が大勢いる。彼女は自分が取るべきタスクリストを作り上げると、ひとつひとつやっていくことにした。幸い、通信網は遮断されていないので、マネージャーや事務所や母親に連絡をとって、非常事態へ対処した。
ひと通りのタスクを終了させると、なんだかお腹が減ってきた。そういえば、今朝の地震があってから、何も口にしていない。ホテルに問い合わせると、ルームサービスは無理だが、ダイニングサロンに来てくれれば、食事は準備できるとのこと。
部屋を出てサロンの席に落ち着き、遅い朝食をとっていると、再び自転車にまたがる佑樹の姿が目に浮かんできた。