凪の海
なぜそんな行動に出たのか、あとになっても汀怜奈は説明ができないのだが、我慢していた涙がどっと溢れ出し、佑樹に抱きついて声をあげて泣き始めたのだ。佑樹の顔を見て安心のあまり、張り詰めていた気持ちが緩んだのだろうか。
「先輩、先輩…どうしたんですか。」
「えっ、えっ…。私…手がうまく動かないんです。えっ、えっ…。」
「見知らぬ土地で、大震災でしょ。手が動かないのも当たり前ですよ。ほら、こんなところで泣くのはやめて…。」
佑樹は、優しく肩を抱いて汀怜奈の頭をなぜながら慰めた。
「先輩、お婆さんが待っていますよ。包帯を貸してください。」
佑樹は汀怜奈が落ち着いてきた頃を見計らうと包帯を受け取り、素早くそして綺麗に、老婆の腕に巻き始めた。汀怜奈は、その様子をじっと見つめていた。
「佑樹さんの手…やっぱり器用ですね。」
「なに言ってんですか、ギター弾く手は下手だと見限ったくせして…。」
佑樹の言葉を聞いて、泣汀怜奈の顔が笑顔に変わった。グラナダの老婆は、汀怜奈に包帯を直してもらおう声をかけたのはいいが、わけのわからぬ言葉で話しながら、コロコロ変わる汀怜奈の表情と展開についていけず、唖然としたおももちでふたりをみつめている。
「佑樹さんは、なぜここにいらっしゃるの。」
「自分は一応住民ですから…医療ボランティアに駆り出されました。」
「そうなのですか…。」
「先輩は?」
「ええ、上の階で通訳ボランティアしていたのですが…終わって下の階に来て驚きました。こんなだったなんて…。」
老婆の包帯の処置を終えた佑樹が、次の患者さんの様子を見に移動した。汀怜奈は、自然に佑樹のあとについて、患者さんを巡る。佑樹も自分について回る彼女を制したりはしなかった。
「私ね…。」
「はい?」
患者さんへ処置する横で勝手に話し出す汀怜奈ではあったが、佑樹は迷惑がらずにしっかりと返事を返す。
「自分が悲しくなってしまったのです。」
「どうして…」
「いくら偉そうに芸術だ音楽だなんて言っても、今ここでは、何の役にも立てない。」
「そうでしょうか?」
佑樹が汀怜奈に向き直って、両肩に手を添えた。
「音楽家は、今ここで役に立たなかったとしても、先輩なら十分に役に立てますよ。」
「どうやって?ギターしか持ったことのないような私が、何の役に立てるの?」
「ほら、あそこの女性が見えるでしょ。」
「先輩、先輩…どうしたんですか。」
「えっ、えっ…。私…手がうまく動かないんです。えっ、えっ…。」
「見知らぬ土地で、大震災でしょ。手が動かないのも当たり前ですよ。ほら、こんなところで泣くのはやめて…。」
佑樹は、優しく肩を抱いて汀怜奈の頭をなぜながら慰めた。
「先輩、お婆さんが待っていますよ。包帯を貸してください。」
佑樹は汀怜奈が落ち着いてきた頃を見計らうと包帯を受け取り、素早くそして綺麗に、老婆の腕に巻き始めた。汀怜奈は、その様子をじっと見つめていた。
「佑樹さんの手…やっぱり器用ですね。」
「なに言ってんですか、ギター弾く手は下手だと見限ったくせして…。」
佑樹の言葉を聞いて、泣汀怜奈の顔が笑顔に変わった。グラナダの老婆は、汀怜奈に包帯を直してもらおう声をかけたのはいいが、わけのわからぬ言葉で話しながら、コロコロ変わる汀怜奈の表情と展開についていけず、唖然としたおももちでふたりをみつめている。
「佑樹さんは、なぜここにいらっしゃるの。」
「自分は一応住民ですから…医療ボランティアに駆り出されました。」
「そうなのですか…。」
「先輩は?」
「ええ、上の階で通訳ボランティアしていたのですが…終わって下の階に来て驚きました。こんなだったなんて…。」
老婆の包帯の処置を終えた佑樹が、次の患者さんの様子を見に移動した。汀怜奈は、自然に佑樹のあとについて、患者さんを巡る。佑樹も自分について回る彼女を制したりはしなかった。
「私ね…。」
「はい?」
患者さんへ処置する横で勝手に話し出す汀怜奈ではあったが、佑樹は迷惑がらずにしっかりと返事を返す。
「自分が悲しくなってしまったのです。」
「どうして…」
「いくら偉そうに芸術だ音楽だなんて言っても、今ここでは、何の役にも立てない。」
「そうでしょうか?」
佑樹が汀怜奈に向き直って、両肩に手を添えた。
「音楽家は、今ここで役に立たなかったとしても、先輩なら十分に役に立てますよ。」
「どうやって?ギターしか持ったことのないような私が、何の役に立てるの?」
「ほら、あそこの女性が見えるでしょ。」