凪の海
 ギターに素人な佑樹には、書いてある意味が半分以上わからなかった。サーチエンジンで、同型ギターの検索を試みようとしたが、いかんせん商品情報が乏し過ぎる。当時の市販額などまったくわからなかった。こんな乏しい商品情報では入札する人がいるわけがない。
 佑樹はあらためて商品の写真を眺めた。彼の目でいくら眺めても、ギターの良し悪しなどわかるわけがないのだが、眺めているうちに不思議な感覚を覚えた。見ているのは自分なのだが、反対にPCに映るギターに自分が見つめられているような気がする。
「薄気味悪いギターだなぁ…。いくらなんでもこんな古臭いジャンクなギターはご免だ。」
 画面を閉じようとマウスを操作した。
「うへっ?」
 佑樹は素っ頓狂な声を上げる。雑にマウスを扱ったせいか、ポインターの位置が「閉じる」ではなく「入札」のボタンの上に置いたまま2回クリックしてしまった。
「しでかしちまったよ…。落札してしまったらどうしよう。落札後の取り消しで、悪い評価がつくのも嫌だし…。」
 後悔先に立たず。佑樹はデスクに肘をついて頭を抱えた。しばらくして冷静になると、佑樹も腹を決めざるを得ないと諦めた。
「まあ、いいか。とりあえずギターとして使えるんだし、万が一落札しても小遣いの許容範囲だし…。」
 佑樹は、ギターのセクションを閉じた。
「さてと、ギターを弾くとなれば、やっぱサングラスは必需品でしょ。」
 彼は、今度は、オークション商品の検索キーワードを『サングラス』に変えて、手頃な商品を物色する。なぜ、ギターを弾くとなればサングラスが必需品なのだろうか。
 ギターを弾きはじめる最初の必需品として、弦でもピックでもカポでもなく、サングラスに思いがいくところなど、佑樹はやはりじいちゃんの言葉を正しく理解できていないことは、誰の目にも明らかだった。

 昼休み、千葉女子高では、仲良し4人組がそれぞれ手紙を手にして教室の一角に集結していた。
「それで、みんなに返事は来たの?」
 幹事役のアオキャンがまず口火を切る。4人はお互いの顔を伺いながら小さくうなずく。
「そう…待つこと苦節3カ月。長かったわね。」
「でもね、アオキャン。」
 オダチンが口をへの字にして訴える。
「書いてあることが難しくて…なんか、想像していた文通と違うみたい…。」
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