凪の海
食事を終えると、午後3時。ミチエが千葉に帰る時間を考えると、これ以上は19歳の乙女を引き留めるわけにはいかない。それに泰滋も親戚の家に向わなければならない時間だ。ふたりは、有楽町駅へ歩いた。黙って歩きながら、ミチエの胸に言いようの無い寂しさが込み上げてきた。
初めて直接あったふたり。ミチエは泰滋に会ってみて、その優しそうな眼差し。落ち着いた語り口。ソフトな声。手紙では知り様の無い彼の側面を感じることができた。そして、さらに湧き出てくる彼への関心と興味を押さえることが出来ない。しかし、ミチエの目から見ると、泰滋が自分に興味を持ってくれたとはまったく思えないでいた。へんにリキんで話しかけて来るとか、顔が上気して何か慌てているとか、そんな気配は全く見せない。いたって平静で、見方によってはつまらなそうとも言える対応で終始自分に接っしていた。やはり直接会ったところで、22歳のインテリ大学生から見た私は、話し相手にもならない馬鹿な小娘にしか見えないのだろうか。自分は彼にとって、興味や関心の対象とはなりえていないようだ。今日ここで別れたら、もう手紙を送ってきてくれない。そんな気すらしていた。
「そしたら、ここで失礼します。」
有楽町のホームで、泰滋が口を開いた。山手線、目黒方向の電車がホームに入って来たのだ。秋葉原方向のミチエとはここで別れることになる。ミチエはブルーな気持ちを悟られまいと精一杯の笑顔で応じる。
「長旅でお疲れなのに、会って下さってありがとう。楽しかったです。」
「こちらこそ、来て頂いてありがとう。」
泰滋も笑顔で応じると、あとはそっけなくミチエに背を向けた。彼の背中を見るミチエの瞳に、じわっと涙が湧いてきた。
「そや。」
泰滋は振り返りもせず、電車がホームに入ってくる音に負けまいと大声で言った。
「京都は盆地でね。海がないんですわ。さっきミチエさんの話しを聞いたら、千葉の海の幸を無性に味わってみたいと思いました。明日、ミチエさんの千葉の実家にお伺いします。手土産持って行きますから、ご馳走してください。」
「えっ、伺うって…。」
「大丈夫、住所はもう暗記しています。勝手に行けますさかいに…。ほな今日は、さいなら。」
泰滋は一方的にそう言い放つと、背を向けたまま左手を軽く上げて、電車に乗り込んでしまった。
初めて直接あったふたり。ミチエは泰滋に会ってみて、その優しそうな眼差し。落ち着いた語り口。ソフトな声。手紙では知り様の無い彼の側面を感じることができた。そして、さらに湧き出てくる彼への関心と興味を押さえることが出来ない。しかし、ミチエの目から見ると、泰滋が自分に興味を持ってくれたとはまったく思えないでいた。へんにリキんで話しかけて来るとか、顔が上気して何か慌てているとか、そんな気配は全く見せない。いたって平静で、見方によってはつまらなそうとも言える対応で終始自分に接っしていた。やはり直接会ったところで、22歳のインテリ大学生から見た私は、話し相手にもならない馬鹿な小娘にしか見えないのだろうか。自分は彼にとって、興味や関心の対象とはなりえていないようだ。今日ここで別れたら、もう手紙を送ってきてくれない。そんな気すらしていた。
「そしたら、ここで失礼します。」
有楽町のホームで、泰滋が口を開いた。山手線、目黒方向の電車がホームに入って来たのだ。秋葉原方向のミチエとはここで別れることになる。ミチエはブルーな気持ちを悟られまいと精一杯の笑顔で応じる。
「長旅でお疲れなのに、会って下さってありがとう。楽しかったです。」
「こちらこそ、来て頂いてありがとう。」
泰滋も笑顔で応じると、あとはそっけなくミチエに背を向けた。彼の背中を見るミチエの瞳に、じわっと涙が湧いてきた。
「そや。」
泰滋は振り返りもせず、電車がホームに入ってくる音に負けまいと大声で言った。
「京都は盆地でね。海がないんですわ。さっきミチエさんの話しを聞いたら、千葉の海の幸を無性に味わってみたいと思いました。明日、ミチエさんの千葉の実家にお伺いします。手土産持って行きますから、ご馳走してください。」
「えっ、伺うって…。」
「大丈夫、住所はもう暗記しています。勝手に行けますさかいに…。ほな今日は、さいなら。」
泰滋は一方的にそう言い放つと、背を向けたまま左手を軽く上げて、電車に乗り込んでしまった。