凪の海
それにしても、このギター。なんて内向的な音を出すギターなんだろう。自分に響くばっかりで、音が外へ出ていかない気がする。これじゃ、コンサートホールの客席にいるオーディエンスに音楽が届かないだろう。仮に『御魂声』を発したとしても、その声が聴衆に届くとは思えない。
しばらくして汀怜奈が橋本ギターから視線を上げると、部屋の入口に佑樹が佇んでいることに気づいた。
「佑樹さん。お帰りになっていたのですか…。」
汀怜奈に呼びかけられて、佑樹は頭をかきながら部屋に入ってきた。
実は佑樹は、汀怜奈が2回目の演奏を始めた時からそこにいた。汀怜奈のギターの演奏があまりにも本物だったから、それを中断してはいけないような気がして、声がかけられなかったのだ。しばらく、汀怜奈のギターを聴いているうちに、その演奏に引き込まれるとともに、ギターを弾く先輩の姿に、今まで感じたことない切ない想いを抱いていた。
到底自分が近づくことができないなにか崇高な先輩。それでいながら、あまりにもさびしそうで放っておけない先輩。近寄れない、でも傍にいてあげたい。この矛盾した想いに揉まれながら彼は入口に立っていた。
汀怜奈を女性だとはゆめゆめ思っていなかった佑樹は、同性の先輩に対して感じる想いとしてはちょっと変かもしれないと、気持ちを切り替えて汀怜奈に話しかける。
「先輩…頂いたお肉で久しぶりにすき焼きするから、おやじが食べていってくださいって…食べていかれるでしょ。」
帰らないでくださいと、心配そうな顔で覗き込む佑樹。佑樹の表情には、彼の心が透けて見える。汀怜奈は、そんな嘘がつけない純真な佑樹が好ましかった。橋本ギターの正体を知った今では、この家に長居をする理由はない。しかし、そんな佑樹の顔を見ては汀怜奈も断りづらかった。
「はい、ではご馳走になります。」
「やった、買い物してすぐ戻ってきますから、待っててくださいよ。」
佑樹の顔がパッと明るくなって、制服もそのままに部屋を飛び出ようとする。その落ち着きのなさは、まるで主人が戻ってきたことを喜ぶ子犬のようだ。汀怜奈が笑顔で呼び止めた。
「お待ちになってください、一緒に行ってもよろしいですか?」
「えっ、買い物を?」
「佑樹さんさえよろしければ…。」
「自分は構いませんが…。」
しばらくして汀怜奈が橋本ギターから視線を上げると、部屋の入口に佑樹が佇んでいることに気づいた。
「佑樹さん。お帰りになっていたのですか…。」
汀怜奈に呼びかけられて、佑樹は頭をかきながら部屋に入ってきた。
実は佑樹は、汀怜奈が2回目の演奏を始めた時からそこにいた。汀怜奈のギターの演奏があまりにも本物だったから、それを中断してはいけないような気がして、声がかけられなかったのだ。しばらく、汀怜奈のギターを聴いているうちに、その演奏に引き込まれるとともに、ギターを弾く先輩の姿に、今まで感じたことない切ない想いを抱いていた。
到底自分が近づくことができないなにか崇高な先輩。それでいながら、あまりにもさびしそうで放っておけない先輩。近寄れない、でも傍にいてあげたい。この矛盾した想いに揉まれながら彼は入口に立っていた。
汀怜奈を女性だとはゆめゆめ思っていなかった佑樹は、同性の先輩に対して感じる想いとしてはちょっと変かもしれないと、気持ちを切り替えて汀怜奈に話しかける。
「先輩…頂いたお肉で久しぶりにすき焼きするから、おやじが食べていってくださいって…食べていかれるでしょ。」
帰らないでくださいと、心配そうな顔で覗き込む佑樹。佑樹の表情には、彼の心が透けて見える。汀怜奈は、そんな嘘がつけない純真な佑樹が好ましかった。橋本ギターの正体を知った今では、この家に長居をする理由はない。しかし、そんな佑樹の顔を見ては汀怜奈も断りづらかった。
「はい、ではご馳走になります。」
「やった、買い物してすぐ戻ってきますから、待っててくださいよ。」
佑樹の顔がパッと明るくなって、制服もそのままに部屋を飛び出ようとする。その落ち着きのなさは、まるで主人が戻ってきたことを喜ぶ子犬のようだ。汀怜奈が笑顔で呼び止めた。
「お待ちになってください、一緒に行ってもよろしいですか?」
「えっ、買い物を?」
「佑樹さんさえよろしければ…。」
「自分は構いませんが…。」