十人十色な真実と嘘
ぱっとしない
カフェにたどり着いた時にはすでに待ち合わせの相手が来ていた。
なぜあの幸せそうな彼カノ特有の空気の中に入っていかなければならないんだろうか。
恋してる、一目で分かる親友の表情に少し幸せを分けたもらった。
これで十分でしょう、じゃあ帰ろう。
踵を返した瞬間に後ろから声がする。
『葵衣ーこっちこっち』
にこにこと彼氏に向けていた笑顔とは異なる種の天使の笑顔で呼ばれて誰が無視できようか。
「……ごめんね遅くなって」
ぺこり、お辞儀をしてくれた親友の彼氏に頭を下げ謝る。
『いいっていいって!!あたしが無理矢理呼んだんだしそれでね葵衣、紹介したい人ってね』
『初めまして綾瀬紫苑です』
ゆったりとした話し方とは裏腹に服はよれよれで、髪も寝癖なんだか癖っ毛なんだか目元まで覆われている。
面食いな有紗にしては珍しい雰囲気の彼氏だ。
「初めまして、星那葵衣です
有紗のことよろしくお願いしますね」
『はい、結婚前提で付き合っていますので』
「へえ、有紗そうだったの?」
面白いことを聞いたなと有紗に視線をずらすと見ているこっちが恥ずかしくなるくらい照れていた。
「あーはいはい、ごちそうさま」
呆れて呟いた私に苦笑いを向けると、綾瀬は会話を繋げた
『有紗と同級生ってことは今大学生?』
「T大で心理学専攻してます。綾瀬サンは?」
『呼び捨てでいいですよ、僕は大学院で生物生理学…プランクトンの研究してます』
「院生ってことは、24ぐらいですか?」
『今年25になります』
ほどよく情報を聞き出したとこで、暇そうにしていた有紗にも話をふって、二人の邪魔をしないタイミングで声をかけた。
「有紗、そろそろ帰るね。綾瀬、有紗泣かさないでね」
1、2時間話せば自然と敬語も抜け、本人の望み通り呼びすてでも呼べるようになった。
仲良く見送ってくれる二人に踵を返し、空を見上げ思う。
彼氏がいるのも悪くないかもな…
なにせ生まれてこの方色恋には関わりなく過ごしてきた。