ドナリィンの恋
「この前、いきなりどこで覚えたのか『オレノオンナ』ってどういう意味かなんて聞くものだから、なんでそんなことを聞くのかと問い詰めたら答えも聞かずに逃げちゃったのよ。」
「…あの夜以来、しばらく元気が無くて心配だったけど、最近は明るく楽しそうにしているじゃないか。もう少し様子を見てみようよ。」
 夫の言葉にうなずきながら、ノルミンダはカットしたキウイを皿の上に盛り付けた。

 バス停での待ち合わせに佑麻が乗ってきた車は、小ぶりながらも、見事な曲線で構成されたいかにも走りそうなスポーツタイプの車だ。ドナは女性の大半がそうであるように、車には関心が薄く、その車がどこの国のなんという車なのかは判別できないが、高級車である事は容易に想像できた。佑麻は兄の車を借りてきたと説明したが、ドナは日本の医師の高所得が羨ましく思えた。バス停で待つドナを見た佑麻は、一瞬ハッとして固まった。そんな佑麻の反応を見て、ドナはシートに腰掛けながら、自分がどのように見えたのだろうかと心配になった。叔母のゴージャスな服を身にまとったとはいえ、着こなせていないようで居心地が悪い。やはり借りものの宿命であろうか。佑麻は、ドレスシャツとスーツを完璧に着こなしている。きっと自分の服なのだろう。運転する凛々しい横顔を眺めながら、いつもとは違ったセレブな佑麻を発見し、ドナは妙な距離感を感じていた。
 やがて、郊外の洋館に到着する。ゲストハウスのエントランスでは、新入生が受付をおこなっていた。
「先輩、遅かったですね。」
 そして、好奇な目でドナに視線を移すとニヤつきながら言った。
「ようこそ、サークル史上初めての外国人女性を心から歓迎いたします。」
 ドナは、もとより日本語がわからないので佑麻に助けを求めたが、彼はそんな後輩の言葉には無表情でそそくさとホールの中へ入っていってしまった。ドナは仕方なく、笑顔で軽く受付の後輩に会釈すると慌てて彼のあとを追う。
 ホールに入ると、ふたりはホールにいるメンバーから一斉に好奇の視線を浴びた。これには佑麻も少したじろいだようだ。待ちかまえていた麻貴が立ちすくむ彼に呼び掛けた。
「佑麻、遅かったじゃない。キャプテンが待っているわよ。」
 麻貴に腕を取られて、佑麻は奥のドリンクコーナーへ引かれていってしまった。
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