ドナリィンの恋
 図書館でレポートを書いているドナが見かねて声をかけた。今日は、図書館での調べ物につきあった佑麻だが、朝、家を出る時からどうも熱っぽかった。どうやら前夜の飲み会のばか騒ぎがたたったようだ。ドナは佑麻の額に手をあてる。確かに顔も赤いし熱がある。
「そうだね。今日は帰るよ。」
 佑麻は、立ち上がろうとするが足元がおぼつかない。ドナは彼の腕を支え、
「バイクを置いて、タクシーで帰りましょう。I bring your home.(家まで送って行くわ。)」
 佑麻のバッグも肩にかけ、二人してタクシーに乗り込む。
 佑麻の家の前にタクシーが着くと、ドナはその家の門構えの立派なことに驚いた。振り返って、彼を見るともうぐったりしている。やっとのことでタクシーから彼を降ろして、玄関のチャイムを鳴らした。
「A housekeeper takes a rest today, so nobody else is in my house.
(今日は、家政婦さんが休みなので家に誰もいないんだ。)」と佑麻が言う。
 仕方ないので、そのまま佑麻の腕を支えながら家の中へ。そして苦労しながら彼を2階のベッドルームに運び込んだ。
 ドナは、佑麻のベッドルームを見回した。初めて見る彼の部屋は、確かに男の子のギアは多いものの、案外整然としている。壁にしつらえた棚には、デジタルフォトフレームが置いてあり、家族を撮った写真が入れ代わり映っている。幼い由紀を腕に抱いている母。その母に寄り添う佑麻と兄のスタジオ写真。小学校の入学式であろうか、頬を膨らませて自慢げに母親と並ぶ佑麻。母親から肩に手をかけられて恥ずかしそうにしている中学の佑麻。どの写真も、今は亡き母を想う佑麻の気持ちがよく伝わってくる。
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