ドナリィンの恋
 そろそろ、水分補給だけでなく何か栄養を取らせなければ。やっとベッドサイドから離れる理由を見つけて、階下に降りた。汗に濡れた佑麻のウエットスーツをランドリーボックスへ運んでいると、突然呼びかけられて、ドナは息が止まるほど驚いた。
「ドナ!あなたなんでここに居るの?」
 声の主は麻貴であった。家族でもない彼女が、なぜこの家の鍵を持って自由に出入りできるのかドナには不思議でもあった。ドナは、ゆっくりとした英語で麻貴に事情を説明する。
「サークルの練習休んだから、そうじゃないかと思ったのよ。ちょっと佑麻の様子を見て来るわ。」
 麻貴が2階にあがる。ドナは、佑麻の部屋の中に貼ってある自分の写真を見られるのが、ちょっと恥ずかしかったが、すぐ降りてきた麻貴の言葉で安心した。
「佑麻ったら相変わらず自分の部屋には誰も入れてくれないだから…。いま降りてくるそうよ。薬は飲ませたの?」
 麻貴の問いにドナが首を振ると、彼女は薬箱を取り出し、体温計、解熱剤を準備する。キッチンへ移ると、電気ポットで湯を沸かし始め、食材の棚から缶のスープを取りだし、すばやく缶を開けて電子レンジで温める。麻貴はこの一連の動きを無駄なくテキパキとこなしている。どこに何があるのか、何をどう使うのか。この家のことはすべて熟知しているようだ。
 次に麻貴は電話をかけた。親しそうに話している相手が誰であるかすぐにわかった。
「佑麻のお兄さんが、あなたと話したいそうよ。」
 兄は佑麻のコンディションと処置した内容を聞いてきた。相手が英語の堪能な兄だったので、ドナは英語で説明したが、特に佑麻に何をしたのかについては、麻貴にその内容が詳しく知られないように早口で説明した。
『In Philippines, Do doctors always give such a first aid treatment to a sick person ?
(フィリピンでは、熱が出たらみんなそうするのかな?)』
 様子を聞き終わった兄が、電話口で質問した。
「Yes , there’s a lot of cases that there’s no medicines…
(国では薬が十分じゃない場合が多いので・・・。)」
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