ドナリィンの恋
 ミミとスカイプを終えたドナは、ベッドにうつ伏せに倒れこんだ。机の上には書きあがったレポートがある。明日提出すればカリキュラムはすべて終了する。その後の日本滞在の残された日々は、叔母のノルミンダと地方に居る親戚へ挨拶に行ったり、東京ディズニーランドに行ったり、御徒町へお土産の買い物に行ったりして多忙な予定が組まれている。もう佑麻と過ごせる日もごく限られてきた。レポート提出後の明後日には、佑麻がこの前の看病のお礼とレポート完成のお祝いに、日本でも有数のワイナリーへ連れて行ってくれることになっている。ドライブしながらの遠出になるので、朝から一日一緒に居られるようスケジュールを調整した。たぶんこの日が佑麻と過ごせる最後の日となるであろう。とにかく佑麻といる時は、別れを考えないで楽しもう。ベッドでドナは、何度も自分に言い聞かせていた。

 ドナを迎えにいく道すがら、佑麻は車を借りる際の兄との会話を思い返していた。
「兄貴、ETC カードもよろしく。」
「遠出なのか?」
「日帰りだけど、中央高速で勝沼方面に行きたいんだ。」
「何だ、麻貴ちゃんとドライブデートか。」
「いいや、違うよ。ドナだよ。彼女も、もうすぐ帰国するから、日本を少し案内してやりたくて…」
「ああ、あの天才ナースか…」兄はすこし考え言葉をつづけた。「彼女が日本人なら、我が医院へすぐスカウトするのにな。」
「どうして?フィリピーナじゃだめなの?」
「いくら能力があっても、患者さんが安心感を持ってくれないだろう。」
「そんなもんかなぁ。自分が熱でた時は、安心して任せられたけどなぁ。」
「しかし、彼女は偉いよ。もうあの年で、将来自分が何をしたいかしっかり考えているもの。ふらふらしている今のお前には、到底太刀打ちできる相手じゃないな。いい加減お前も、将来のことをしっかり考えろよ。」
「お説教はもう十分だよ。」そう言いながら、佑麻はひったくるように車のキーを受け取ったのだ。
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