ドナリィンの恋
(私は絶対お前のものじゃないからな、わかったか。)」
「わかってるよ。あの時はそうでも言わないとドナを守れなかったから・・・。」
「Shut up !! How could you say that in public? It’s unbelievable!!
(黙れ!みんなの前でそんなこと言っていたなんて。信じられない。)
Sabi ko na nga ba salbahe ka eh!!!(やっぱりお前は悪い奴だぁ。)」
 ドナは佑麻に掴みかかろうとしたが、ついに酔いが回ってテーブルにうつ伏せてしまった。佑麻は、グラスとワインボトルを片づけると、ドナの頬にかかる髪を指の背で優しく掻きあげた。ワインで火照るその頬に、ワインの香る唇に、触れたいという欲求を辛うじて押さえ、車から持ってきたブランケットで彼女を包む。そして、最後の目的地へ向かうために、彼女を背負うとブドウの果樹園を抜けて、高台の方へゆっくりと歩いていった。背中では、ドナが寝言を呟いている。
「kahit ano pa. Pede naman akong maging sayo. Isama mo na ako kahit saan, at pag-aari mo ako! Torpe !!
(なんでもいいから、私をさらって自分のものにしちゃえよ。ばかやろう。)」
 もちろんタガログ語だから、佑麻にはその意味がわからなかった。

 上がっていった先には遠くが見渡させる丘がある。ドナをその芝生に寝かせると、佑麻は自分も横になり彼女の頭を腹に乗せた。そこから景色を眺める。ブドウの木々が連なり、丘に沿って茂るその様子はまるで外洋のたゆやかな波のうねりのようだ。フランスのブドウ園もこんな風景なのだろうか。やがて日が傾き、今日一日のふたりをにこやかに照らしてくれた日差しが、山並みの向こうに隠れようとしている。山辺は赤く、天空はダークグレーに、時とともにその色を濃くしている。そして日が隠れると、夜の帳が下り、天空の世界は一変する。満天の星が漆黒の夜空に溢れ、いつからいたのだろうか、その妖艶な月が、電灯ひとつないブドウ園のうねりを照らし出す。月光は、ドナのまつ毛にもその光をからめたが、彼女はまだ眠れる森の美女よろしく規則正しい寝息を立てて目を閉じている。
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